忍び切支丹ロレンソ了斎――大友宗麟VS毛利元就(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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 アルメイダに対し首を横にふることができず、「これでは、忍びであったころと変わらぬ」と沈みそうになる心持ちが、次郎丸を目の当たりにしていると幾分やわらいだ。
 他方で了斎の頭は冷静にアルメイダの言葉を斟酌している。確かに、という思いを抱いた。水源が云々というのは、あくまで戦が長期に渡る場合の話だ。ほかの尼子の遺臣をあつめるためにも、緒戦は短期で決着をつけて勢いを得る必要がある。
「お前たち、どこの者だ」
 突如として第三者の声があがった。
 瞠目して了斎とアルメイダ、次郎丸はその源へ目を向ける。
 川側の木陰からいつの間にやらひとりの男児が姿を現していた。全身が濡れていることから、どうやら川をもぐって泳ぐうちに金介たちの警戒をくぐり抜けてこの場へとやって来たようだ。
 相手がどうやって近づいたかを悟ったところで、「さて、どうしたものか」と了斎は頭を悩ませる。
 行者に化けているが、行者が山にいても不思議ではないと通じるか微妙な年頃の相手だ。ましてや、行者の身なりをしていてもアルメイダが異相であることに変わりない。行人包みをさせてはいるが角度によっては異貌が丸分かりだ。
 それでもとりあえずは、と了斎が口を開きかけたとたん、孤影が一瞬裡に男児の側に立った。
 れんだ。早(はや)――その手には短刀がにぎられ、木漏れ日というおだやかな光を受けながらも剣呑に輝いていた。
 刹那、了斎は迅影と化す。彼の伸ばした腕が辛うじて、刃が男児の首にふれる寸前で短刀をふるおうとしたれんの手首をとらえた。
「よさぬか」
 切支丹となってからは一度も発したことのない、低い声が自然ともれる。
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