忍び切支丹ロレンソ了斎――大友宗麟VS毛利元就(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

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　刃風一颯、了斎のふるった太刀が狼の胴をあっさりと両断する。移動する途上で群れからはぐれたらしい狼に襲われ応戦したのだ。
　枯れた小枝をへし折るかのごとく容易に猛獣の命を奪えた、その事実に肌が粟立つ感覚をおぼえる。そんなものとり戻したくなかったが、かつての実力を甦らせつつある自分を自覚した。
　記憶のなかの血にまみれた自分と、狼の身から飛び散った鮮血で濡れた自分がかさなる。
　だが、動きは止めない。
　アルメイダと次郎丸の命がかかっている。とにかく、狙撃の場所からはなれなければならない。
　なにはともあれ急ぐのだ――憂鬱な気持ちを押さえ込んで先へと進もうとした。
　木立の切れ目にさしかかる。
　とたん、士卒の集団に遭遇した。その数、二十五人ほどか。具足こそまとっていないが刀槍で武装し、脚絆は手甲を身にまとった者が単なる地下の集まりということはないだろう。
　な、と声にならない声を了斎はあげた。
　唐突に足を止めた彼の背後から、「神よ」というアルメイダの声が聞こえてきた。ただし、そのひびきは絶望しきったものではない。あくまで、戦うために神の慈悲を乞うた、そんな声音だったのだ。
　その声色に背中に押される形で、了斎は一瞬の停滞から立ち直る。