忍び切支丹ロレンソ了斎――大友宗麟VS毛利元就(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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「よくぞ、参られた伊留満(イルマン)」
 老年の地下の男の呼びかけで了斎は我に返る。
「大内の一族の御仁がもどられたこと執着至極でございまする」
 老爺の目は炯々と光っていた。その瞳にやどる色は、とてもではないが友愛を説く耶蘇教の教えに帰依しているようには見えない。
 むしろ、切支丹の敵である悪魔(デーモン)を思わせる。
 すこし相手の態度に圧倒されながらも、「聞きたいことがある」と了斎は告げた。
 なんなりと、と応じる相手に対して告げた。
「毛利の陣営に南蛮人の姿を見た者がいないか、教えてくれ」
 アルメイダが拐されてから、了斎は大内輝弘のもとにあつまってくる切支丹を利用しての行方の捜索をおこなっている。毛利方には“大内の残党”をいっしょくたにされているが実は毛利家のもとで弾圧された切支丹もそのなかにひそかに混じっていた。
「南蛮人」と老爺は怪訝な表情を見せる。
「そういえば、毛利陸奥守の倅で吉川を継いだ方の陣中にさような者がいると聞いておりまする」
「さようか」
「さようにございます」
 勢い込んでたずねる了斎に老爺はややたじろぎながらうなずいた。
「毛利めの動きを探るために手の者を足軽、雑兵としてもぐりこませておりますれば」
 相手のかさねた言葉に了斎はさらに興奮を高める。
 だが、一方で意識の冷静な部分は大きな困難を予感していた。
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