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「もう、いい」
が、れんの発した言葉に了斎は拍子抜けさせられた。
「みずからの命をかけ、大友が大内の者たちを捨石するやもしれぬと示唆された、そんなあなたに教えられた。肝要なのは誰ぞの定めた“因習”ではない、と。そも、世は戦国乱世、これまで形づくられた理のことごとくが通じぬ世。なれば、わたしもわたしが正しいと思う道を選ぶ」
彼女の言葉に、しばし了斎は沈黙する。
けっしてそんなはずはないが、これまでの自分のすべての過ちを“赦された”ような錯覚すらおぼえた。
戦を恐れて旧大内館の城下から多くの人間が逃げ出していた。
だが、一方で“つどって”来る者たちもいる。足軽、火事場泥業の類、あるいは商人。
そして、彼らとはあきらかにようすを異にする一団があった。城下の寺のひとつに彼らは押し入り、憎々しげなようすで仏像を引き倒すなどの不心得者の行為におよんでいる。
そんな彼らの宰領の前に了斎は立っていた。
そこまでせずともよかろう――経典を外に運び出し焚き木にくべる様を内心苦々しく思って見ている。
なぜ、老若男女の彼らはそのようなことをおこなっているか。
それらは彼らが切支丹だからだ。
毛利元就のもとで布教が禁止された耶蘇教の教えに帰依しているために味わった辛酸、その鬱憤が大内輝弘の蜂起によって一時的に切支丹であっても弾圧されないという状況が生まれ噴出しているのだ。毛利元就が認める宗門、そういう認識のもとに周防の切支丹たちは主を失った寺に不満をぶつけている。
だが、それでいいのかと了斎は思っていた。
毛利元就が耶蘇教を否定したように仏門を否認しても、それは相手を抹消しない限り延々と同じことがくり返されるのではないか、そんな気がしている。事実、異国の宗門がどうのという以前に、仏門の内部でもすでにそういう事態は幾度も起きていた。
が、れんの発した言葉に了斎は拍子抜けさせられた。
「みずからの命をかけ、大友が大内の者たちを捨石するやもしれぬと示唆された、そんなあなたに教えられた。肝要なのは誰ぞの定めた“因習”ではない、と。そも、世は戦国乱世、これまで形づくられた理のことごとくが通じぬ世。なれば、わたしもわたしが正しいと思う道を選ぶ」
彼女の言葉に、しばし了斎は沈黙する。
けっしてそんなはずはないが、これまでの自分のすべての過ちを“赦された”ような錯覚すらおぼえた。
戦を恐れて旧大内館の城下から多くの人間が逃げ出していた。
だが、一方で“つどって”来る者たちもいる。足軽、火事場泥業の類、あるいは商人。
そして、彼らとはあきらかにようすを異にする一団があった。城下の寺のひとつに彼らは押し入り、憎々しげなようすで仏像を引き倒すなどの不心得者の行為におよんでいる。
そんな彼らの宰領の前に了斎は立っていた。
そこまでせずともよかろう――経典を外に運び出し焚き木にくべる様を内心苦々しく思って見ている。
なぜ、老若男女の彼らはそのようなことをおこなっているか。
それらは彼らが切支丹だからだ。
毛利元就のもとで布教が禁止された耶蘇教の教えに帰依しているために味わった辛酸、その鬱憤が大内輝弘の蜂起によって一時的に切支丹であっても弾圧されないという状況が生まれ噴出しているのだ。毛利元就が認める宗門、そういう認識のもとに周防の切支丹たちは主を失った寺に不満をぶつけている。
だが、それでいいのかと了斎は思っていた。
毛利元就が耶蘇教を否定したように仏門を否認しても、それは相手を抹消しない限り延々と同じことがくり返されるのではないか、そんな気がしている。事実、異国の宗門がどうのという以前に、仏門の内部でもすでにそういう事態は幾度も起きていた。
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