忍び切支丹ロレンソ了斎――大友宗麟VS毛利元就(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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「その毛利陸奥守とて元は勝てぬと見られていた相手を破ったことにより山陽、山陰の太守となったのだ」
「されど、その毛利陸奥守が相手でござる。生半可な知略は通じぬことでござろう」
 かさねた主にせりふに他の部将が反論の言葉を口にする。
 はっきりとは表にあらわさなかったが、大内輝弘が“悟った”ことが了斎はその目の色からつたわってきた。
“すでに大内勢は心で破れている”と。

   二

 旧大内館の曲輪の一角、陣屋のひとつにもどった了斎をひとりの人物が待ち受けていた。
「もうしわけない」
 深々をこうべを垂れたのはれんだ。
 アルメイダはれんを救おうとして凄絶な手練の忍びに拐されることとなった、そのことを謝っている。
 その心からの態度を前に了斎は苦笑を浮かべた。
 なんとも皮肉な仕儀よ――自分を仇と定め憎んでいた相手に謝罪される事態となっている。
「わしは仇なのではないか」
 つい、冗談じみた口調で告げた。対するれんはその言葉に顔をあげたものの怒りの色はない。
「あなたはわたしが死ねといえばで死んでくださいますね」
「アルメイダ殿を救わねばならぬから今すぐにとはいかぬが、おぬしが望むのであれば」
 彼女の問いかけに了斎は迷うことなく応じた。その心持ちに嘘偽りはない。
 やはり、過去から逃げることはできないのだ。償いを求める者がいるのであれば全身全霊でこたえなければならない。
「切支丹の教えでは、みずから命を絶つことは禁じられているのでは」
「知っておったか」
 れんのかさねての問いに了斎は苦笑を深める。それでも、求められるのならみずから命を絶つ所存だ。
 真に過ちをおそれるのなら、“因習”に逆らわなければならぬ局面がこの世にはある。
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