忍び切支丹ロレンソ了斎――大友宗麟VS毛利元就(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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 だが、金介は饒舌にしゃべりながらも隙を見せない。尼子氏が滅びるなかで、したがってきた忍びたちは毛利の透波に多くが討たれるか逃散した。そんななかで踏みとどまった、途上で裏切ったにせよ生き延び忍び働きをつづけてきたその業前はけっして軽んじることはできない。
 思えば己が生きてきたのも金介と行動をともにしていたからこそ、そんな考えさえれんの脳裏をかすめた。
「したが、今のおまえは虚勢ではない強さをまとっておる」
 顔は笑っている、だが金介の目はどこか真剣なようにれんには思える。
 そう思った瞬間、
「れん、ともにもう一度来ぬか」
 と金介が言い放った。
「たわごとを」
「妻夫(めおと)の契りを交わさぬか」
 れんの言葉をさえぎってせりふを継いだ金介の顔からは笑みが消えている。
 その申し出にれんの思考に空白が生まれた。
 だが、金介はその隙を突いてくるという行動には出ない。代わりにさらに口を開いた。
「以前、妻夫にならぬか、とたずねたことがあろう」
「あれは、たわむれに発した」
「のではない」
 またも金介はれんの言葉をさえぎった。
 れんはそれで相手が本気であることを理解する。先ほど抱いた、思えば己が生きてきたのも金介と行動をともにしていたからこそという思い、あれは違う捉えかたがあったのだ。金介はれんを守りたいがために一緒にいたのだと。
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