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毛利の本陣をはなれ混乱する将士の隙をついて了斎とアルメイダは森の一角へと逃げ込んだ。
だが、それは錯覚だったとすぐに思い知らされる。
やはり、泳がされておったか――了斎は木陰から姿を現した巨躯を目の当たりにして苦い気持ちを抱いた。脇にひかえるアルメイダに気をつけろと身ぶりでつたえる。
「なにゆえ、陣中において捕まえなんだ」
「それでは“邪魔”が入る。おぬしとの業比べ、存分に楽しみたいのだ」
かつての朋輩、十郎右衛門と言葉を交わしながらも了斎は周囲へと気を配っていた。
しかし、己の感覚に引っかかるものはみじんもない。
アルメイダに命じられての忍び働きでほぼかつての勘を取り戻している。おそらく、本当に周囲には誰もいない。
「なにゆえにわしにそこまでこだわる」
「矜持だ」
十郎右衛門の言葉に了斎はまゆをひそめた。
「武家は誉れ、領地、官途と得る物は多い。なれど、おれたちはどうだ。褒美といったところで武門の者が戦功を立てて得るそれに比べればたいしたものではない。そして、上手くやりおおせれば忍び働きは誰にも知られず、名声を得ることもない」
そこで十郎右衛門は一拍間を置く。
そのまなざしは了斎の脇のアルメイダへと向けられていた。
止せ、と了斎は彼に目線でつたえる。
会話の間にアルメイダが短筒を使おうと試みていたのだ。しかし、十郎右衛門には見抜かれていた。もし動こうとすれば手裏剣で打たれる、それでは了斎がわざわざ危険を冒して毛利の陣中にもぐりこんだ意味がない。
「ゆえに、おれは己の業前の優れていることにこそ意味を見出し、それを矜持としておる」
何事もなかったように十郎右衛門は言葉をかさねた。
毛利の本陣をはなれ混乱する将士の隙をついて了斎とアルメイダは森の一角へと逃げ込んだ。
だが、それは錯覚だったとすぐに思い知らされる。
やはり、泳がされておったか――了斎は木陰から姿を現した巨躯を目の当たりにして苦い気持ちを抱いた。脇にひかえるアルメイダに気をつけろと身ぶりでつたえる。
「なにゆえ、陣中において捕まえなんだ」
「それでは“邪魔”が入る。おぬしとの業比べ、存分に楽しみたいのだ」
かつての朋輩、十郎右衛門と言葉を交わしながらも了斎は周囲へと気を配っていた。
しかし、己の感覚に引っかかるものはみじんもない。
アルメイダに命じられての忍び働きでほぼかつての勘を取り戻している。おそらく、本当に周囲には誰もいない。
「なにゆえにわしにそこまでこだわる」
「矜持だ」
十郎右衛門の言葉に了斎はまゆをひそめた。
「武家は誉れ、領地、官途と得る物は多い。なれど、おれたちはどうだ。褒美といったところで武門の者が戦功を立てて得るそれに比べればたいしたものではない。そして、上手くやりおおせれば忍び働きは誰にも知られず、名声を得ることもない」
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「ゆえに、おれは己の業前の優れていることにこそ意味を見出し、それを矜持としておる」
何事もなかったように十郎右衛門は言葉をかさねた。
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