忍び切支丹ロレンソ了斎――大友宗麟VS毛利元就(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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 互いの“間”が合い、了斎と十郎右衛門は距離を置いた。両者は満身創痍だ。幾筋もの血が衣装をぬらし、開いた傷口が痛みを走らせている。
 だが、その表情は対照的だった。
 念願叶っての戦いに高揚する十郎右衛門。このままでは仲間ともども犬死にすることになるとあせる了斎。
 次で決める――了斎は強く決意した。精神を引き絞るようにして気魄を頭頂部からつま先にまで行き渡らせる。
 それに十郎右衛門が気づかないはずがない。贅を尽くした食い物を目の当たりにした痩せ犬のごとく目を爛々と光らせた。
「捨て身か」
「さように見えるのか」
 敵の問いかけに特に感情をこめず了斎は応じる。集中力を少しでも欠けさせたくないのだ。
「されど、業前は互角。尋常の手立てでは到底、おれを倒しえない」
「それがどうした」
 了斎の取り付く島のない物言いに十郎右衛門はやや眉をひそめる。
 だったら直接確かめればいいのだとでも思ったのか、迅影と化した。
 肉薄する十郎右衛門、銀光が弧をえがく。
 了斎は気づいていた。十郎右衛門の“癖”に。
 忍びに大切なのは生き残ることだ。
 そのためには相手を斃すことより、相手を追跡不能にしたほうが効果的だといえる。
 ために、十郎右衛門の忍刀の一撃の多くが双眸を狙ってきた。下の軌道から襲いくる一撃は避けづらいものだ。
 了斎は躱さない。その身に刀身をしかと受けた。火薬が眼前で爆ぜたような痛みと熱を眼窩に感じる。
 己自身の悲鳴をかき消すように叫び、了斎は苦無を一心に突き込んだ。
「おまえ、化物だな」
 確かな手応えを得た瞬間、十郎右衛門の楽しげな声がすぐ近くで聞こえた。
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