切支丹陰陽師――信長の恩人――賀茂忠行、賀茂保憲の子孫 (時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

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　そう、彼が口にした通り、攻撃が来た方角は返り忠の者たちが声をひびかせたのとは別の方向だった。
　だが、さらに新たな動きが起こる。
「毛利の奴輩が兵をくり出したぞ」という叫び声が聞こえた。
　絶叫の内容は事実のようで、声の源とおぼしき方面にいる将兵たちがあわてたようすで蠢くのが各所にたかれた篝火に照らされてわかる。
　通常、完全な闇のなかでは同士討ちの危険があるため兵をくり出すことはない。
　だというのにそれを実行に移すということは、それ相応の工夫があるということだ。返り忠の発生と鎮圧で少し気が抜けたところに毛利の本隊の攻撃。そして、それに乗じた夜討ちの中軍――在昌は先ほどの矢が飛来した方向へをにらみつけた。
　数十人の軍兵が完全武装でこちらに迫りつつある。
　不意の蜂起、多くの者が鎧具足を脱いでいる刻限、そして不寝番に当たっている者が城方の兵に当たっているという状況がかさなって、宗麟と敵の距離は指呼のそれにまでちぢまっていた。
　立ちはだかろうとする士卒を敵がほふる。その士気は高く仲間が目の前で槍につらぬかれても気にしたふうもない、ただ猛然をこちらに近づいていた。
　さらに、旋風(つむじ)を巻いて動く影がある。軽装だが、その者が数間の距離をまたたく間に移動しては手槍をふるうたびに血が噴き、大友の士卒が死体となって転がった。飛びまわるようにして動く様は宙を舞う猛禽を思わせる迅さだ。
　と、視界の端に在昌は己の太刀をもってうろたえる小姓の姿をとらえる。
　彼は相手に向けて声を必死に張り上げた。「御前、それをこちらへ」
　動揺のせいか、小姓はいわれるままに駆けてきて得物を返す。