切支丹陰陽師――信長の恩人――賀茂忠行、賀茂保憲の子孫 (時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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 ただ、公家は何事も前例を重視し変化を嫌う。そんな彼らに在昌の暦を認めさせるために、信長はまずおのが国許で使用している三島暦を認めさせるつもりだ。旭日の勢いの己の使用する暦の採用であれば、公家たちも断りにくかろうという意図がある。そうやって前例を作った上で、在昌の暦を「三島暦を改良したものだ」と偽って採用する算段なのだ。
 しかし、そのためにはまず実物を目にし、作った当人から直接話を聞きたいというのが信長の意向だった。そのため、こたびの畿内行きは在昌にとってもおおいに意義のあるものとなっている。
 にしても――仁右衛門はあきれと感心の入り混じった目で改めて在昌を見やった。
「今宵も星をながめられる所存で」
「さよう、旅路の夜は些事に手をわずらわされることないゆえ、星見にはちょうどよい」
 よろめきながら在昌は立ち上がり帳面と筆を取り出す。
 あるまげすと、とやらの解読も飽くことなくつづけておるようであるし――。
 なんともまあ、意志の強い――信長と一夜の酒宴で仲がよくなったのもうなずけるというものだ。その点において在昌は主と非常に似ている。そういう人間はえてして孤独だ。ために同胞に出会うと強く引かれる。
 いや、いつまで経っても見飽きぬ仁――それが仁右衛門の感想だ。
 在昌の側につくことを命じられたお陰で、毛利との戦の折は別にして陰惨な忍び働きとは縁遠い暮らしを送れている。
 透波としての生に飽いていた自分にしてみれば非常に満足だ。
 かような日々がいつまでもつづいてほしいものだ、仁右衛門は吐き気をこらえながら星をながめる在昌を目の当たりにし微笑を浮かべながら胸のうちでつぶやく。

   三

 それから一月ほどの時間をかけて、在昌たちは石山本願寺の近くへとやって来ていた。
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