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「いや、聞くところによると錯乱した者から子どもを救ったとかで。素晴らしい御仁ですな」
「さようですな」
罪を犯して逃げていた男がその途上で村の子どもを人質にして民家の納屋にこもった。そこに上泉伊勢守信綱が居合わせ、彼は同じく近くにいた僧から衣装を借り受け剃髪して僧侶に化け相手を油断させた上で素手で捕えたというのだ。
その技倆もさることながら、地下の子どもを救うという目的のために尋常の武家の出の者なら思いつきもしないことを実行に移すという人格こそが際立っている。
僧、掟破り――在昌は上泉伊勢守の逸話について思い返している途中で脳裏にひらめくものがあった。
「白湯をどうぞ」「かたじけない」
別段、疲れたようすも修羅場に接した恐怖もいっさいにじませず、湯のみを手にもどってきた子どもから白湯を受け取る仁右衛門に、
「仁右衛門、ひとつ策を思いついたぞ」
と在昌は小さく叫んだ。
「これ仁右衛門、もそっとやさしくいたせ」
「房事でもあるまいし、面倒臭い」
「面倒臭がるな、怪我を負う」
「漢がさような些事にこだわるな」
「些事にこだわるは公家の習いだ」
「昇殿も許されぬ身のくせに」
大騒ぎしながら“こと”に臨む在昌と仁右衛門に伴天連(バテレン)たちは目を丸くしていた。改めて注目されるとなんとなく恥ずかしくなってくるから不思議だ。南蛮人にしてみれば面妖であろうな、と在昌もわかっているから文句をつけることもできず好奇の目線を浴びつづけるしかない。
「さようですな」
罪を犯して逃げていた男がその途上で村の子どもを人質にして民家の納屋にこもった。そこに上泉伊勢守信綱が居合わせ、彼は同じく近くにいた僧から衣装を借り受け剃髪して僧侶に化け相手を油断させた上で素手で捕えたというのだ。
その技倆もさることながら、地下の子どもを救うという目的のために尋常の武家の出の者なら思いつきもしないことを実行に移すという人格こそが際立っている。
僧、掟破り――在昌は上泉伊勢守の逸話について思い返している途中で脳裏にひらめくものがあった。
「白湯をどうぞ」「かたじけない」
別段、疲れたようすも修羅場に接した恐怖もいっさいにじませず、湯のみを手にもどってきた子どもから白湯を受け取る仁右衛門に、
「仁右衛門、ひとつ策を思いついたぞ」
と在昌は小さく叫んだ。
「これ仁右衛門、もそっとやさしくいたせ」
「房事でもあるまいし、面倒臭い」
「面倒臭がるな、怪我を負う」
「漢がさような些事にこだわるな」
「些事にこだわるは公家の習いだ」
「昇殿も許されぬ身のくせに」
大騒ぎしながら“こと”に臨む在昌と仁右衛門に伴天連(バテレン)たちは目を丸くしていた。改めて注目されるとなんとなく恥ずかしくなってくるから不思議だ。南蛮人にしてみれば面妖であろうな、と在昌もわかっているから文句をつけることもできず好奇の目線を浴びつづけるしかない。
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