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チャプタ―17

遺言恋愛計画書17

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 健人は、芽衣と頻繁に外で会うようになった。
 新宿、渋谷、池袋といった町で、本屋、映画館、カラオケなどに行き、そうでないときもファストフード店やコーヒーチェーンで雑談に興じた。
 新宿の大型書店の別館で漫画を買ったふたりは、コーヒーチェーンに入って注文、受け取りを済ませてテーブル席についた。
 しばらく、漫画について話す。
「『恋の念仏』って、禁断の恋っていうにはちょっと笑えますよね」
「まさに相手が“坊主”だからねえ、つるっぱげにロマンも何もない気がする」
 芽衣の言葉に、健人は笑って応じた。『恋の念仏』は、事情があって住む場所がなくなった女子高生が寺に居候することになる話だ。少女漫画なのだが、恋愛要素が薄い作品だ。著者は、他にも少女漫画が刊行されているが、全体的に少女漫画にしては恋愛のウエートが低めのものを得意とする。
「ボクも出家しようかなぁ」
 芽衣が悩ましげに独語に近い声をもらした。
「精進とか興味あるの?」
 健人は、さりげなくたずねる。芽衣がそうしたいなら、彼女としては尼の道だって“あり”だと思った。
「世俗のことを忘れるって一種のロマンだと思うんですよ」
 芽衣の言葉に、なるほど、と健人はうなずく。
「でも、ロマンって現実になったとたん、魅力を失う気がするな」
 健人の感想に、
「ですかねえ」
 芽衣も強いて反論しない。出家発言は、あくまで気紛れだったのだろう。
「健人さんて、どうして今の高校に進学したんですか?」
 話の矛先が自分に向いた。
「どうして、か」
 健人は自問する。どうしてだろうか?
「確固とした理由はないかな。やっぱり偏差値の高い学校のほうが大学進学の面で利があるから。いざ何かやりたいことができたときに学歴がないと進めないってなったら嫌だから、選択肢を狭めないように今の大学に進学した」
 健人は、湧き出る言葉を口にした。
「考えて進学したんですねえ」
 芽衣が感心したように首肯する。
「高校受験の時点で何かがやりたいことが決まってたら、もっと進む道が定まってたと思うよ。自分の未来を、早くに見定めるられる人ってすごい」
「お兄ちゃんってそういう人でした」
 芽衣の口から出た“お兄ちゃん”という単語に健人はかすかに息を呑んだ。
「そういえば、和田が将来何になりたいって聞いたことがなかった」
 健人は、その事実に思い至る。未来が見える人間の“未来設計”とはいかがなものなのか、近い未来に何が起こるかばかりに目が向いていて失念していた。
「お兄ちゃんは頻りに言ってました。『世界を救う』って」
 芽衣の言葉に、「世界」とつぶやき健人は笑う。
 大言壮語だが、それを実現させてしまいそうな雰囲気が和田にはあった。未来予知がなくとも邁進していたような気がする。
「国連で働きながらも、投資で大儲けしてそれを寄付するって」
「和田らしい」
 健人はほほ笑む。
 身を粉にしながらも、一方的で現実的なことを考えている、和田はそんな少年だった。
 そこで、聞くべきだろうか、と健人は悩んだ。
 せっかく進路についての話になっている、だったら芽衣に「あなたはどうしたいの?」という質問をぶつける選択は有りなのではないか。
 思案を巡らせた末、
「芽衣はどうしたいと思ってる?」
 と内心、緊張しながらたずねた。
 しばし、芽衣は考えるようすを見せる。そして、
「誰かのためになりたい、と思う」
 と告げた。
「倒れた人の分まで、誰かが前に進むのを助けたい、と思う」
 芽衣のかさねた言葉に、健人はしんみりとなる。そして、
「それはいい考えだ」
 ほほ笑んだ。
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