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チャプター33
君へ向かうシナリオ33
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その日は専門学校の授業があった。
ただ、前日からずっと翔花に会うことが頭にあって講師の仕事に集中できるはずもない。シナリオの仕事でさえも極端に執筆速度が落ちてそれに気づいて顔をしかめざるをえなかったのだから。
お陰で授業中に、『月は無慈悲な夜の女王』とSFのタイトルを挙げようとしたら、
「月は無慈悲な夜の女王様」
と言い間違えてしまった。たった一字が加わっただけで大惨事だ。
「先生、それはどこのレーベルの官能小説ですか」
「それってかぐや姫がボンテージファッションで貴族たちを調教する話ですか」
などと生徒にからかわれてしまった。多分、数ヶ月はこのネタを生徒は持ち出すだろう。下手をすると卒業しても。実際、僕が在学中にそういう惨事は起きている。クラスメートが腹が痛いと訴えたため水なしで飲める腹痛薬を彼に渡したのだが、それを見ていた女子がくだんの男子に対して「ストッパ」というあだ名をつけるという現場に遭遇したことがあった。彼女たちは卒業式の二次会でさえ、例の生徒のことをストッパと称していた。
ただ、憂鬱な気持ちはあまり尾を引かない。授業が終われば翔花との対面が待っているのだ。緊張がほかの感情を塗りこめて表に出てこさせない。
そうして、長い長いと感じながら過ごし、いざ授業時間の終わりがおとずれると短かったと感じる複雑な時が終了した。
野呂啓花に言い寄られるなどの厄介事を避けるために足早に教室をあとにし教務へと向かう。翔花に対して偽の彼女を称してメールを送った疑惑は、あくまで疑惑のままであるため啓花に対してなにかペナルティが課されるということはない。
こちらにしてみれば大事なプライベート、人生を踏みにじられたということになるが、学校からしてみれば学費をおさめる金づるのほうが大切だ。
ましてや、この専門学校は講師を軽んじる風潮が蔓延している。
今の生徒が卒業し、かつそのときに別の学校の講師の口があれば僕はそちらに移る気だ。それが今回の啓花の行動に対する僕の答えだった。
「巽先生、ちょっと」
「すいません、仕事の打ち合わせがこの後あるので」
丘野が話しかけてくるのを強引にふり切った。
駅へとつづくまっすぐな道を歩く。
頭を翔花と会うことが占めているせいで、景色がまったく視界に入ってこない。漫画のネームみたいにほとんどが空白の場所を進んでいった。
と、駅前についたところでスマートフォンに着信が入る。
立ち止まり液晶画面を確かめた僕は眉をひそめた。
曲直部秀穂、という名が表示されている。翔花と同じ研究室の助手だ。前に研究室の見学でおとずれたときにメルアドと番号を交換していた。
『翔花が倒れて病院に運ばれたわ』
冷静さを装っているがそれでも焦りや憂慮のにじむ声で電話に出た僕に彼女は告げる。その言葉を聞いた瞬間、目の前がまっくらになった。まるで自分自身すらも消えてしまったかのような錯覚と、恐怖をおぼえる。
その日は専門学校の授業があった。
ただ、前日からずっと翔花に会うことが頭にあって講師の仕事に集中できるはずもない。シナリオの仕事でさえも極端に執筆速度が落ちてそれに気づいて顔をしかめざるをえなかったのだから。
お陰で授業中に、『月は無慈悲な夜の女王』とSFのタイトルを挙げようとしたら、
「月は無慈悲な夜の女王様」
と言い間違えてしまった。たった一字が加わっただけで大惨事だ。
「先生、それはどこのレーベルの官能小説ですか」
「それってかぐや姫がボンテージファッションで貴族たちを調教する話ですか」
などと生徒にからかわれてしまった。多分、数ヶ月はこのネタを生徒は持ち出すだろう。下手をすると卒業しても。実際、僕が在学中にそういう惨事は起きている。クラスメートが腹が痛いと訴えたため水なしで飲める腹痛薬を彼に渡したのだが、それを見ていた女子がくだんの男子に対して「ストッパ」というあだ名をつけるという現場に遭遇したことがあった。彼女たちは卒業式の二次会でさえ、例の生徒のことをストッパと称していた。
ただ、憂鬱な気持ちはあまり尾を引かない。授業が終われば翔花との対面が待っているのだ。緊張がほかの感情を塗りこめて表に出てこさせない。
そうして、長い長いと感じながら過ごし、いざ授業時間の終わりがおとずれると短かったと感じる複雑な時が終了した。
野呂啓花に言い寄られるなどの厄介事を避けるために足早に教室をあとにし教務へと向かう。翔花に対して偽の彼女を称してメールを送った疑惑は、あくまで疑惑のままであるため啓花に対してなにかペナルティが課されるということはない。
こちらにしてみれば大事なプライベート、人生を踏みにじられたということになるが、学校からしてみれば学費をおさめる金づるのほうが大切だ。
ましてや、この専門学校は講師を軽んじる風潮が蔓延している。
今の生徒が卒業し、かつそのときに別の学校の講師の口があれば僕はそちらに移る気だ。それが今回の啓花の行動に対する僕の答えだった。
「巽先生、ちょっと」
「すいません、仕事の打ち合わせがこの後あるので」
丘野が話しかけてくるのを強引にふり切った。
駅へとつづくまっすぐな道を歩く。
頭を翔花と会うことが占めているせいで、景色がまったく視界に入ってこない。漫画のネームみたいにほとんどが空白の場所を進んでいった。
と、駅前についたところでスマートフォンに着信が入る。
立ち止まり液晶画面を確かめた僕は眉をひそめた。
曲直部秀穂、という名が表示されている。翔花と同じ研究室の助手だ。前に研究室の見学でおとずれたときにメルアドと番号を交換していた。
『翔花が倒れて病院に運ばれたわ』
冷静さを装っているがそれでも焦りや憂慮のにじむ声で電話に出た僕に彼女は告げる。その言葉を聞いた瞬間、目の前がまっくらになった。まるで自分自身すらも消えてしまったかのような錯覚と、恐怖をおぼえる。
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