俺がそれを好きだからといって俺自身がそうなりたいわけじゃないっ!

サツキ

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1章

目が覚めたら真っ暗闇

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 顔に冷えた大粒の雫が落ちて、脳が一気に覚醒した。頬に当たるやや湿った硬い岩の感触に戸惑いつつも寝ていた体を起こした。
薄く目を開けて周囲を見渡すが、あたり一面黒。恐ろしく黒。どこをどう見ても黒。これでもかと目をかっぴらいても黒。
 あ、でもだんだん目が慣れてきて辛うじて足下は見えた。しかしそこは頬の感触通りの岩だった。ガックリ。
 暗いし、足下岩だし、どこだよここ。
 ひとまず、足を延ばしてトントンと地面をたたきながら地面があることを確認しつつ少しずつ進んでいく。俺は慎重なんだ。うっかり歩いてて道が途切れて落下死なんて冗談じゃない。
 そうしてしばらく歩いていると奥のほうにわずかな光が見えた。
 と、ここで安心してはいけない。もしかしたら岩の隙間から見えているだけで、出口ではないかもしれない。なんなら俺をここに連れてきた連中がキャンプ中だったりするのかもしれない。話し声は全く聞こえないが。
 もしそうだった場合、俺はすぐにつかまってしまうだろう。何せ高校では漫研、大学では勉強とコミケの原稿漬けで体はへなちょこだ。身だしなみは多少気を遣っていたのでそこまで人に邪険にされたことはないが、まさかこうして連れ去られる?なんてな。いつの間に。昨日は徹夜明けで午後の講義以降記憶がないんだ。不思議だな。
 息をひそめて周囲の気配を感じ取りつつ、疑いながらも僅かな希望を持ち、やはり慎重に進んでいく。すると、岩だらけの空間から、緑がいっぱいの森に出た。出口だった。

「でも、ここ、出口だけど出口じゃない……はっ?!」

 待て待て待て。今の声は誰だ。一応俺が喋りはしたが、こんなに高い声じゃない。誰の声だ。

「あー、あー、もしもーし」

 喉を押さえて振動を確認した。俺から出てる。高いけど、女の子ほどじゃなくて。声変わり前の男の子みたいな……。
 まさか。何とも言えない考えが頭を過って、喜んでいいのか悪いのか。いや確かに俺はそういう生き物だけれど。そうじゃないのに。
 あたりをキョロキョロと見渡して、水場を見つけた。そこに駆け寄り、水面に映る俺を確認した。

「ひょぇ……」
 サラサラの黒髪に二重瞼のぱっちりと開いた目。すらりと通る鼻筋に、形のいい唇。すべて均等に小さな顔に収められている。整いすぎて怖いくらいに。
 頬に触れるとニキビ一つできたことのなさそうなもち肌がふるりと動いた。
 美少年だ。美少年がいる。水の奥に美少年が住んでいます。
 水面が木漏れ日を反射してキラキラしているのもなにか見えないものが空気を読んでいるような気がしてならない。グッジョブ。いいエフェクトだ。夏コミのノベルティに使おう。
 しばらくぺたぺた触って感触を確かめつつ、俺は一度冷静になった。
―――あれ、これ俺?
 脳内にクエスチョンマークを大量に浮かべつつも、そのあともぺたぺた触って現実逃避をしていたら、水面に映る家のようなものが見えた。
顔を上げて見てみると、大きな木の上にツリーハウスがあって、木が絡まってできたらしい螺旋階段からそこに上れるようだ。
どうせこのままここにいても進展しないだろうし、あそこで誰かに頼ろう。電話とかあったら実家に電話させてもらおう。そう考えて、階段を上る。
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