俺がそれを好きだからといって俺自身がそうなりたいわけじゃないっ!

サツキ

文字の大きさ
2 / 11
1章

ツリーハウスに入りました

しおりを挟む
「すみません。どなたかいらっしゃいませんか」

 こんこんこん、とノックをして声をかける。返事がない。心地の良いボーイソプラノだから聞こえなかったのだろうか。同じことを二回繰り返す。今度は少し大きめの声で。だが、それでも返事はない。
 不法侵入はいけないが、このまま森の中を歩くと確実に死ぬ。絶対死ぬ。良心が痛むが勝手に入らせてもらおう。




そっと木でできたドアから中をのぞいて、特に問題がなさそうだったので小声で「お邪魔します」と唱えてから中に入ると突然薄暗い室内が明るくなった。驚いて家から出るとまた中は薄暗くなった。なんだ?自動センサーでもついてるのか?トイレかよ。
 もう一度中に入って明かりがついたのを確認しながらあたりをよく観察する。中は普通の家っぽい。外から見ると狭そうだなと思ったが、案外広々としていて、なんならあと4つ部屋がある。洗面所とか風呂場とかかな。この部屋にはキッチンと大きめのテーブル、でもキッチンがキッチンらしくない。最先端のキッチンには水道もコンロもないのか?
 ううむ、あまり人様の家で探検するのはよくないが、まあ仕方がない。もしかしたら家主がいるかもしれないし……もしいたらこっそり出て、入り口からやり直そう。
 まず一つ目のドア。
 開けたらシャワーと猫足バスタブがあるタイル調の浴室だ。どこもかしこもピカピカに磨かれていて、まるで一度も使ったことがないかのような部屋だった。
 二つ目のドア。
 ここは本当に何もない。空気を入れ替えるためだけの窓がついているだけ。ここマジモンの新居なのでは?
 三つ目のドア。
ここは寝室らしい。ええっと、キングサイズ?クイーンサイズ?とにかくおおきなベッドが部屋の隅にドーンと置かれている。それ以外は何もない。ベッドの上にはしわ一つないシーツと触り心地のよさそうな布団に、枕が4つだ。ホテルみたい。ただ、ここも使われた形跡はない。ベッド回りに髪一本落ちてない。ここまでくるといっそ不気味だ。
四つ目のドア。
どうせここも何もないのだろうと思い、さっきまでの慎重さを忘れてドアを思いっきり開けた。やはりここにも何もない……わけではなく、部屋の壁中本棚になっていて本がびっちり入っている。部屋の隅には高いところにある本を取るためのスツール。そしてド真ん中に大きな水晶玉。
もしかして俺、どこかのテーマパークに迷い込んだのか?入場料払ってないし、財布も何もないから捕まりそうだな。身分を証明することもできないし、こんな美少年じゃ最後は闇オークションに連れていかれて金持ちのおっさんに薬漬けにされちゃうのでは?怖い。最近読んだ同人誌の内容そのまんまだよ。なんでこんな時に神本のストーリー思い出すんだよ。危機感持てよ。自分が怖いわ。
やれやれ、と自分で自分にため息をつきつつ真ん中に居座る水晶の真正面に立つ。色々気になるところはあるが、一番気になっているのはこの水晶だ。こいつだけ、異様に存在感を放っている。まるで触れと言わんばかりに。ふむ、罠か。でも、これ触るとアトラクション終了で現実に帰れたりするのかもしれない。最近流行りのVR世界とかだったらありえる。知らんけど。
一応触れてみて何もなかったらここで家主の帰りを待とう。そう考えて俺はその水晶に手を伸ばした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

【死に役転生】悪役貴族の冤罪処刑エンドは嫌なので、ストーリーが始まる前に鍛えまくったら、やりすぎたようです。

いな@
ファンタジー
【第一章完結】映画の撮影中に死んだのか、開始五分で処刑されるキャラに転生してしまったけど死にたくなんてないし、原作主人公のメインヒロインになる幼馴染みも可愛いから渡したくないと冤罪を着せられる前に死亡フラグをへし折ることにします。 そこで転生特典スキルの『超越者』のお陰で色んなトラブルと悪名の原因となっていた問題を解決していくことになります。 【第二章】 原作の開始である学園への入学式当日、原作主人公との出会いから始まります。 原作とは違う流れに戸惑いながらも、大切な仲間たち(増えます)と共に沢山の困難に立ち向かい、解決していきます。

「俺が勇者一行に?嫌です」

東稔 雨紗霧
ファンタジー
異世界に転生したけれども特にチートも無く前世の知識を生かせる訳でも無く凡庸な人間として過ごしていたある日、魔王が現れたらしい。 物見遊山がてら勇者のお披露目式に行ってみると勇者と目が合った。 は?無理

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処理中です...