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プロローグ

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 私大塚麻奈はこの世で一番本が大好きだ。
歴史、民族、ミステリー、ファンタジー、
ホラー、文学、芸能、宗教、人文、演劇、、
 自分の知らない事や世界を教えてくれる本が何よりも大好きだ。
 そんなこよなく本を愛する麻奈が特に好きな本はなにかと聞かれたら、間髪入れずに答える。日本文学と歴史小説だ。
 日本文学は古代から現代まで歴史が長い。
歴史が長い分、時代によって文学作品の傾向が違っているから、ものすごく面白い。
 日本文学を読みながら、麻奈は書かれた時代の人になりきって本の世界に入り込む。
 麻奈はそれだけで、嬉しくなって幸せを感じている。また、日本史の偉人たちの人生がドラマチックに書かれている、歴史小説を読んでいるときも、自分が登場している人物にあったら、どうしようと読むたびに妄想していた。
 麻奈は、常に本を読んでいないと落ち着かない。受験にも関わらず本ばかり読んでいたため、母が鍵付きの倉庫に、片付けるぐらいだ。
 幼い頃から県内の大学の文学部・国文学科に合格が決まった高校三年生の今まで、その事を知っている幼馴染の陽那は、麻奈のことを本の虫と呼ぶ。同級生からも、読んでいる本の内容や分厚さから、鈍器を持っている、変人と呼ばれる事もよくあることだ。
 だけど、他人から何を言われようと気にしない。本があって、本が読めれば、麻奈は幸せなのだ。
 
 
 秋が終わりに近づき、冷たい風が吹くようになった。風に捲られるページを押さえながら、麻奈は歩き読みをしている。前髪が風で乱れていても気にしないが、本のページが勝手に捲れそうになると、慌ててページを押さえた。
「麻奈、歩き読みやめな。車に轢かれるよ」
「うーん。もう少しだけ・・・・・・」
 本の世界に没頭している麻奈は、生返事をした。その後、本を読むのに邪魔だと感じたのか、やっと前髪を整えた。
 仕方なさそうに、陽那は麻奈の読んでいる本を取り上げた。本を取り上げられた麻奈は、少し眉を寄せて不機嫌になった。
「あっ、良いところだったのに!」
「あんたが車に轢かれそうだから、助けてあ    
げたの。文句言わないで」
「う~、確かに車には轢かれたくないけど」
そう言いながら麻奈は、背伸びをして陽那から本を取り返した。
「本の歩き読みはダメだって、いつも言って るじゃん。そのうち、事故に遭って死んでも知らないよ」
「それは困る!まだ、自分の書庫だって持ってないのに」
「あんたね・・・」
麻奈は将来自分の書庫を持つことが夢だ。好きな本がたくさん収納された、本棚がある書庫を手に入れ、本に囲まれながら一生を過ごしたい。
 本の読み過ぎて変人と言われようと、周りから変な目で見られようと、知ったこっちゃない。本を手放すことは、一生ないと思うから。
 それに、死ぬなら日本中のいや、世界中の本を読んでから死にたい。自分が死ぬ時、まだ読んだことがない本があったら死んでも死にきれない。麻奈は本気でそう思っている。
「まったく。私が毎日一緒に登下校してなかったら、事故死一直線だよ。感謝して!」
「してるしてる。感謝感激、陽那様ありがとうございます~」
「してないでしょ?絶対」
「本当にしてるよ。陽那のお陰で、私は毎日安心して本を読むことができるもん。それに、もし死んだとしても生まれ変わって、本を読ませてくださいって、神様に絶対にお願いする!」
「できるわけないでしょ、本の虫っ」
そんな会話をしながら、陽那と別れる交差点に着いた。
 麻奈と陽那は幼馴染だが、お互いの家自体はあまり近くなく、登下校の際はこの交差点で待ち合わせをしたり、別れて自分たちの家に帰っている。
 麻奈は陽那と別れた後、読んでいた本の続きを読み始める。そして、本の世界へと没頭し読み進めていく。
 突然、クラクションが鳴り響いた。
えっ、何?と麻奈が立ち止まった瞬間、目の前に大型トラックが飛び込んできた。
「えっ、ひぅぁ・・・」叫び声を上げる前に、麻奈の視界は真っ暗になった。
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