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ヒトリオウ
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T舵国の王都ダダ
王都ダダは
縦横無尽の水路によって支えられている
物資や人を満載した舟が賑やかに行き交う
T舵国は古い大国だ
城には蔦が張り付いている
緑の城の奥深く
T舵国王ダジャは酷く気が重い
ほっそりとした体躯を分厚い緑色のマントで包んで
椅子の奥深くに腰掛けている
椅子の下に抜け道でもあるなら
とっくに入り込んで
水路に出て舟に乗り
東の果てのデルデ岬に行き
そこから
さらに東へと船を出すに違いない
整った顔立ちのT舵国王ダジャであるが
なぜか 分厚い白い髭で顔を隠している
T舵国は
ヴェダの数が
世界一多い
そのヴェダが…
ヴェダは
もともと…
T舵国王ダジャは
深い溜め息をつく
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どこにも属さない
いや
荒野に属する
だから
ケモノになる
ケモノは
ヒトリオウとなることはない
ケモノはケモノでしかない
ヒトリオウはケモノとなる
それが
ヒトリオウだ
実際は荒野も
どこかの国の領土だが
ヒトリオウには
国境は及ばない
ヒトリオウには
サンカクは及ばない
ヒトリオウは
サンカクに及ぶのであろうか
と
いつかレイグスクが詠った
それが
いつであったか
知る者はいない
腹が減れば食う
それがヒトリオウだ
シカを食う
それがヒトリオウの好物だ
荒野とは何ぞや
ヒトリオウが
ケモノとなって
走るところ
ヒトリオウが
清きケモノとなって駈けるところ
それが荒野だ
たとえ大陸一の都であろうと
ヒトリオウがケモノとなって
走り抜けるとき
そこは荒野だ
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ヒトリオウは
山の民の子として山で生まれた
最初は
普通の赤子であった
やがて青白くなり
言葉を喋る頃には
透明になった
祈祷師が何度も秘術の限りを尽くした
だが
ヒトリオウは
ついに姿を消した
その現象は不思議なのだが
さらに不思議なのは
ヒトリオウが幼くしてすでに
孤独を心から喜んだことである
ヒトリオウは
すぐに山を離れた
この世界には
ヴェダ制度があり
不思議な力を持つ女はヴェダとなって
ヴェダ制度に従って祭事を指示しながら不思議な力を増す修行をする
不思議な力を持つ男は祭事官となって
ヴェダの指示に従って祭事を実行しながら
不思議な力を消す修行をする
ヒトリオウは山の民の長の子供である
山の民の長に
なぜか
ヴェダ制度が及んでいなかったので
ヒトリオウは
祭事官に任ぜられることがなかった
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