ヌーバニア

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ヒトリオウ

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79


T舵国の王都ダダ

王都ダダは
縦横無尽の水路によって支えられている

物資や人を満載した舟が賑やかに行き交う

T舵国は古い大国だ

城には蔦が張り付いている

緑の城の奥深く

T舵国王ダジャは酷く気が重い

ほっそりとした体躯を分厚い緑色のマントで包んで
椅子の奥深くに腰掛けている

椅子の下に抜け道でもあるなら

とっくに入り込んで
水路に出て舟に乗り
東の果てのデルデ岬に行き

そこから
さらに東へと船を出すに違いない

整った顔立ちのT舵国王ダジャであるが

なぜか 分厚い白い髭で顔を隠している

T舵国は
ヴェダの数が
世界一多い

そのヴェダが…

ヴェダは

もともと…

T舵国王ダジャは
深い溜め息をつく



80


どこにも属さない

いや

荒野に属する

だから
ケモノになる

ケモノは
ヒトリオウとなることはない

ケモノはケモノでしかない

ヒトリオウはケモノとなる

それが
ヒトリオウだ

実際は荒野も
どこかの国の領土だが
ヒトリオウには
国境は及ばない

ヒトリオウには
サンカクは及ばない

ヒトリオウは
サンカクに及ぶのであろうか


いつかレイグスクが詠った

それが
いつであったか
知る者はいない

腹が減れば食う
それがヒトリオウだ

シカを食う
それがヒトリオウの好物だ

荒野とは何ぞや

ヒトリオウが
ケモノとなって
走るところ

ヒトリオウが
清きケモノとなって駈けるところ
それが荒野だ

たとえ大陸一の都であろうと
ヒトリオウがケモノとなって
走り抜けるとき
そこは荒野だ



81


ヒトリオウは
山の民の子として山で生まれた

最初は
普通の赤子であった

やがて青白くなり

言葉を喋る頃には
透明になった

祈祷師が何度も秘術の限りを尽くした

だが
ヒトリオウは
ついに姿を消した

その現象は不思議なのだが

さらに不思議なのは

ヒトリオウが幼くしてすでに
孤独を心から喜んだことである

ヒトリオウは
すぐに山を離れた

この世界には
ヴェダ制度があり
不思議な力を持つ女はヴェダとなって
ヴェダ制度に従って祭事を指示しながら不思議な力を増す修行をする

不思議な力を持つ男は祭事官となって
ヴェダの指示に従って祭事を実行しながら
不思議な力を消す修行をする

ヒトリオウは山の民の長の子供である

山の民の長に

なぜか
ヴェダ制度が及んでいなかったので

ヒトリオウは
祭事官に任ぜられることがなかった








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