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ジャラージャ

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エニュニは今、不可解な丘に居る

エニュニは先程まで確かにジャラージャ村に居たのだ

T舵国のレイリョク使いと、厳選された近衛兵が集う村に

T舵国王ダジャは常に何かを恐れていた

その恐怖に対処するべくジャラージャ村を作った

ジャラージャとはT舵国王ダジャの娘の名である

王の娘ジャラージャの存在はT舵国のごく一部の者だけが知る

ジャラージャは生まれながらのレイリョク使いであった

T舵国王ダジャは予知のレイリョクを持つゆえにジャラージャの誕生を数年前に知り得た

王は自らが密かに抱えていたレイリョク使いの協力のもと、世界のヴェダに感知されない特殊な地場を作った
その場所がジャラージャ村である

秘蔵のレイリョク使いを増やし

その協力のもとジ ャラージャ村が出来上がった

ジャラージャの存在はヴェダにさえ察知されなかった

T舵国王ダジャの娘ジャラージャはヴェダとして召集されることもなく
戦闘力としてレイリョクを鍛え上げた

ジャラージャ村にはT舵国内のレイリョク使いが集められた

近衛兵の選抜隊も組織された

国王ダジャは
レイリョクと兵力を融合させて世界の人々が想像さえできない特殊な軍隊を作り上げた



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レイリョク部隊の長はT舵国王ダジャの娘ジャラージャである

近衛兵の選抜隊はヤボザが率いている

ヤボザは王自らがT舵国内を漫遊した時期に探し出した男だ

王には予知レイリョクがあるから
真っ直ぐに最良の部下を探し当てることも可能である

しかし予知レイリョクの持ち主ゆえに王ダジャは知っている
未来は刻々と変化するものであることを

最良の部下が明日
即、最大の敵になる予知は幾度もダジャ王に訪れたのである

そこで王は自国を数年かけて漫遊したのである

個人にとらわれず、T舵国全体の物語の可能性を非常に大まかに捉えようとしたのである

その漫遊の時期に
ヤボザを発見した王は
すぐにヤボザに会いにゆくことをせず

ヤボザと世界
ヤボ ザと青龍大陸
ヤボ ザとT舵国
ヤボザと王

というように
可能性と世界と個人の運航を大まかなところから
次第に細かなところへと絞りこんでいったのである

ヤボザは笛を吹く

昼間は農業に従事しているが夜になると笛を吹く
ヤボザの家には夜になると村人が大勢集う

ヤボザは竹製の笛を持つ
人々はヤボザがその竹笛を吹いていると思い込んでいる

だがレイリョク使いの王はすぐにわかった
ヤボザは竹笛を吹 いているのではない
竹笛を吹く振りをして実は
ヤボザは口笛を吹いていたのだ



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後にT舵国王ダジャはヤボザに問う

「なぜ竹笛を吹く振りをして口笛を吹いて
いたのだ? 」

ボサボサの黒髪を掻きながらヤボザは

「恥ずかしいですから
口笛を吹いている口の形が恥ずかしいですから
村の娘たちには恥ずかしくて披露できませんですから
竹笛を吹いている振りをして
ましたです 」

ヤボザの口笛は勇気と安らぎをもたらす

ヤボザの家の傍には巨大な滝がある
雨季になると滝はすさまじい轟音を発する

村人はこの轟音の真っ只中でも騒音を気にせずにヤボザの口笛に酔いしれる

ヤボザの口笛は轟音を易々と祓うのである
このハラエのちからに王ダジャは驚いた
王の予知には現れない現象であることにも同時に驚いた

世界には予知の届かない現象が多々あることを王ダジャはもちろん知っていたが

予知の届かない現象は往々にして不気味な範疇に入る

ところがヤボザの口笛の現象は微笑ましいのだ

人の記憶まで書き換えてしまう冷徹さを持つ王さえもが
微笑ましいと感じる現象なのであっ た

T舵国王ダジャは己の恐れの深さを理解している

戦への備えであるジャラージャ村の生成に王の恐れは悪影響を及ぼす
その事をさらに王は恐れていたのだ

恐れは備えとなり力ともなるのだが
内部崩壊にもまた作用する

ヤボザのハラエが

王ダジャには必要であった







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