異世界旅行は命がけですがよろしいですか?―バウガルドの酒場冒険譚

永礼 経

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異世界なめたら死ぬよ?

第6話 リアルって、ほんとやべぇ!

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 ぐあああああ――――!

 シンヤもサラもこれまでの人生で聞いたことがない叫び声をきいた。

「え? トオル? おい、腕が……?」
「あああああ、いやあああぁぁぁ! やだやだやだぁぁぁ! はなして! 放してよぉお……」

 があぁっぁぁっぁ……。トオルは右腕のひじの先を押さえてうずくまっている。

「ふんっ、不用意に腕なんか出しやがるからよお。思わず反応しちまったぜ……」
一人の男(犬顔)がそう言った。そいつの手には血に濡れた半月刀が握られている。

「な、なんなんだよおおお! てめえいきなり何斬りつけてんだよお!」
シンヤがその犬男に吠えたが、足がガクガク震えていて力が入らない。

「なんだぁ? お前も切り落とされたいってか? はっはは――。おい兄ちゃんよぉ、威勢がいいのもいいがよ、返り討ちにしちゃうぞ?」
そう言って犬男は半月刀をシンヤの方へ向ける。

「く……っそぉ――ぉおおお!!!」
シンヤはいきなりその犬男へ突進した。しかし、シンヤの突進はひらりと犬男にかわされてしまった。

 勢い余ったシンヤはそのまま地面に転がる。

「けっ! よわっちぃくせにいきがってんじゃねぇ!!」
犬男の半月刀がシンヤの背に襲い掛かる!



――ギィィイン――!


 金属がぶつかる音がしたかと思うと、犬男の半月刀が宙を舞い、サラの目の前30センチほどの地面に突き刺さった――。

ぐああ!

 今の叫び声は、シンヤじゃない? じゃあ誰? とサラが思って顔をあげると、犬男が地面に転がって伸びている。

「げぇっ! お前は! 『竜撃』――キョウヤ……!!」


「そのぐらいにしておくんだな。俺の目の前でこれ以上の横暴は、許さんぞ――」


「あ……ああ……」
サラは言葉を失っている。

 顔をあげたシンヤに見えたのは、金色に輝く鎧、背中の大楯――。
(あ、あの人はさっきの――?)

「けっ! おしまいだおしまい。おい起きろ、ジェイド! 帰るぞ!」
叫んだのはもう一人の男(こいつも犬)、サラをつかんでいる方だ。

「あああ……、くそっだれだ! ああ!?」
気が付いたジェイドと呼ばれた犬男は誰にやられたのかさえ気づいていない。
「やめろジェイド! 『竜撃』だ! 相手が悪い――いくぞ、オラ!」

 そう言ってその男たち(犬×2)はその場から走り去っていった(2本の足で)。

「だから言ったろうが! 人の忠告には素直に従うもんだ! 死ななかっただけ幸運だったな、俺が遅れてたら今頃お前ら命を落としているぞ!?」
『竜撃』と呼ばれたその金ぴか鎧男が3人に向かって怒号を上げた。

 そうして、地面に転がっていた「腕」を拾うと、うずくまっているトオルに近づき仰向けに寝かせた。
「大丈夫か? 意識はあるな? 痛いだろうがもう少しの辛抱だ、ちょっとの間我慢しろよ――?」
 そう言ってその「腕」を、寝転がっているトオルのなくなった腕の先辺りに近づけ、その接合部分に手をかざした。
超高度治癒エクスヒール――」
 ぽうっとその接合部分の周辺に温かな光が発生すると、数秒後、トオルの表情が和らいだ。腕は元に戻っている。

「な? どうやって――?」
シンヤは驚きで声が出ない。

「さすが『竜撃』、治癒の魔法も超一流だぜ――」
「いいもんみたわぁ――」
「あんな高度魔法なかなかお目にかかれんぞ――」
などと周囲のやじ馬たちが口々に漏らす。

「あ、ありがとうございます! 助けていただいて――」
サラが金ぴかに深々と頭を下げた。

「ああ、間に合ってよかったよ。いったんログアウトしたんだが、ちょっと気になってな。戻ってきて正解だったわ――」

「ほ、ホントになんて御礼を言っていいか、ほんとにありがとうございます! で、ホントにすいませんでした!」
シンヤが今度は頭を下げた。

、気を付けるんだぜ? さっきも言ったがここは日本じゃないんだ。酒場の中には、あの人リノさんがいるからめったなことは起こらんが、酒場を一歩出たらもう命が危険にさらされるって自覚しろ――」

「俺の腕……、くっついてる?」
トオルが少し落ち着いたようで、自分の腕をまじまじと眺めて呟いた。

「トオル! この人が直してくれたんだよ」
「あ、あなたはさっきの……すいません。とんでもない迷惑をおかけしたようですね――ありがとうございます」

「もういいよ、それより取り敢えず中に入ろう。ここで出会ったのも何かの縁、ってやつだろう。せっかくだからいろいろと教えてやるよ。お前らがまだここに来たいってんならだけどな――」

 3人は顔を見合わせて、少し考え込んでるようだったが、数秒後、きれいに3人並んで同時に頭を深々と下げた。

「「「よろしく、お願い、します!」」」
 
(こいつら、懲りねぇやつらだけど、目の色が変わりやがった。また面白そうなやつらが入ってきたな――)

 『竜撃キョウヤ』は新しい冒険者ダイバーが増えることを素直に喜んでいた。
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