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異世界行商でセカンドライフを満喫するつもり
第19話 新しい町の夜
しおりを挟む荷物をまとめて、とはいっても、まさか全部を担いで移動できるわけではない。
今回のところは、次の街の視察がメインだ。実際に店を移すのはその町の状況を知ってからの方がいい。
この世界、ケルンから先の街へは街道がつながっているが、商業ギルドの力が大きいこともあり、街道は綺麗に整備されている。とはいっても、現代日本のようにアスファルトで舗装されているわけではないが、充分に荷馬車を引いたり、馬(のような生き物)に引かせたりして走れるようにはなっている。
荷馬車を引くための馬はなかなかに高価である上に、世話をする厩も必要なこともあり、個人持ちの者は少ない。行商の者はたいてい、商業ギルドの馬貸しサービスを利用している。商業ギルドで馬を借り、荷物を引かせて移動した後、移動先の商業ギルドで返却する。非常に便利なシステムだ。
取り敢えずのところ、少量の消耗品だけをまとめてあとは商業ギルドの貸し倉庫に預けておく。この貸し倉庫は期間限定であるため、期限を過ぎたものは商業ギルドがすべてを取得するという、非常に簡素なシステムを取っているが、使い勝手がいいため、利用するものは多い。期限とはいっても、数日というわけではなく、最大1年となっているので、ダイバーの行商にもよく利用されている。いずれにせよ、こちらの世界のものは何も持って帰還できないのだから、ダイブをやめてしまえば、ここにある資産など何の意味も持たないのだ。
それなら後進の者に利になるよう商業ギルドへ渡してしまった方がよい。商業ギルドはそれを有効に活用するだろう。
ハヤトは今日のところは徒歩で隣町まで行ってみることにした。
ケルンからは東西南北4方向に街道が伸びているが、北には街道のすぐそばに森が横たわっているため、一人旅はあまりお勧めできない。最近そこにはフォレストウルフが群生しているため、危険地域指定がされている。
そのため、比較的平地を進む西ルートを選ぶことにした。西にはニューズレイトという町があり、それほど規模は大きくはないが、最近、その町の近くのベイリン鉱山が初級冒険者の次の狩場として注目を集めている。
道中に魔物の類は出現しない為、一人歩きでも危険なく移動できるというのも今のハヤトにはありがたい。
ハヤトはケルンを出て西の街道をニューズレイト目指して歩き始めた。
道程は約半日。ニューズレイトに着くころには日暮れだろうか。こちら時間で、6時間ほどなので、向こう時間では36分というところだ。今日は少し帰りが遅くなるかもしれないな、と考えつつもゆっくりと歩を進める。
往復するだけで1時間かかる。向こうで帰還すればいいだけのことだが、その場合、帰還時に預り所に自動収納されるのは装備品だけなので、荷物はそこに放置状態になる。冒険者が緊急離脱する際にはこれで充分だが、行商人のハヤトにとっては商売道具を放置して帰還するのは難があると言わざるを得ない。出来ればケルンに戻ってから帰還したいところだ。
数時間後――。
さあて、ここからどうしようか――。
何となくふらふら歩き続けているうちに隣町まで来てしまったハヤトは、日が暮れかけている街並みを見やって、思案している。
時間はまだあるはずだ。
(せっかくここまで来たんだ。今夜は帰還せず、夜を過ごすのもいいかもしれないな――)
そんなことを考えて、ハヤトは一人歩き出した。
街並みは確かにケルンほどではない。しかし、人通りは結構ある。夕暮れ時ということもあって冒険者風の身なりをしたものが町へ戻ってきており、町のあちらこちらで今日の成果や明日の狩場情報などの情報交換をしているのがわかる。
ケルンはまだ商業都市感が強かったが、ここはもう冒険者の拠点という風情だ。
やはり、ベイリン鉱山の人気が非常に高いことがうかがえる。
隼人は取り敢えず宿を探すべく、行商人の露店を訪ねてみた。こういう時商業ギルドのつながりは強い。瞬く間に数件の候補宿が見つかった。
隼人はその内の一件に向かい宿を所望すると、すぐに部屋を用意してくれた。おもえばこちらの世界で夜を過ごすのは初めてのことだ。部屋に荷物を置いて、宿に隣接する酒場へ戻り、一杯やることにした。
やはり圧倒的な冒険者の比率だ。酒場にいる8割が冒険者風情の者たちで、戦闘用の装備を身に付けている。それに装備の質もやはりケルンの冒険者たちより上等なものを付けているものが多い。
(やはり、先の街に進めば進むほど、実入りも多くなるという事か――)
その時だった。
『てめえら! ダイバーだろうが!』
店内に大きな怒声が響いた。周りの客たちも何ごとかとざわつく。
『よそ者がこんなところで当然のように飲んでんじゃねぇよ! 酒がまずくなるだろうが!』
声の主は、少し離れた場所に立っている男(馬顔)だった。
怒声を浴びせられたのは3人組の冒険者だった。
「おっさんよお、俺らはべつになにもしてねえだろう? 何だよいきなり。さすがに気分悪いぜ?」
その中のリーダー格の男は人間だ――。間違いない、ダイバーなのか?
その男が立ちあがって、馬男につっかかったのだ。
「てめえ、ダイバーが粋がってて、ただで済むと思ってるのか?」
「どうやら、口で言ってもわからないらしいな。俺らも命がけでやってんだ。お前らと何も違わねえってことを見せてやるぜ?」
「ほう、大口をたたいたことを後悔させてやる――、表に出ろ!」
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