異世界旅行は命がけですがよろしいですか?―バウガルドの酒場冒険譚

永礼 経

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異世界行商でセカンドライフを満喫するつもり

第18話 バウガルドへ何しに来たんだ?

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 『アームズショップハヤト』の開店から早くも(現地時間で)1年が経とうとしている。
 
 初めのうちは本当に不安だったが、なんだかんだで売り上げも順調に推移している。武器防具を主に扱っているハヤトの店は、基本的に商売相手は冒険者たちになる。
 ゲラルトさんのところに初めてお世話になったときは、武器防具なんて一度買えばあまり買い換えないのではと思っていたのだが、なんの、なかなかに武器防具というのは消耗品なのだと教わった。

 冒険者たちは自分に合った武器を使うものなのだが、やはり毎日のように魔物を退治したりしていると、刃こぼれはするし、防具も傷んで来る。しばらくの間は、鍛冶屋や装備屋などで修理しながら使うのだが、やはりある程度までしか回復できなくなってくるのだ。
 そうなると結局新しいものに買い替えるしかなくなる。だが、使い慣れた形のものが基本的にはいい。形状や形式が変わってしまうと、戦闘時の勘が鈍る為、冒険者たちはできる限り同型のものを求める。
 つまり、同じ店で買うという事にもなる。

 そうなると、いつも必ず同じものが手に入る武器屋を基本的には懇意にすることになるというわけだ。

 ゲラルトさんは、この点が武器屋の課題だとも言った。
 拠点を変えない限り、基本的に経営は安定する。一定のお客さんが顧客として付くからだ。しかし、拠点にはそれぞれそれ相応の冒険者しかいない。つまり、レベルやクラスがあがると冒険者は次の拠点に移ってゆく。
 もちろん上位レベルの冒険者に見合った武器防具の方が高価で実入りもいい。しかしそれを欲する冒険者は先の拠点にしかいないのだ。
 
 はじまりの街ケルンに拠点を構える冒険者は非常に多いと言える。なぜならここが冒険者ギルドの本部所在地であり、冒険者を志す者はこの街の冒険者ギルドで登録しなければならないからだ。
 しかし、それは、初期レベル冒険者が圧倒的に多いという事にもなる。売れるものは安価な初期冒険者用装備が主体となる。
 たしかに一定の売り上げは申し分なく上げているし、新規の顧客もどんどん増える。しかし、レベルやクラスがランクアップして先の街へ拠点を移すものもまた多い。つまり、今まで懇意にしていた顧客が減っていくのもまた事実なのだ。

 やはり、さらに売り上げを拡大するためには、自身も販路を拡大するしかないようだ。
 なるほど、ゲラルトさんが後継者を欲した理由もよくわかる。

 しかし、そもそもゲラルトさんはこの世界の住人で、しかもこの世界で何十年何百年と生きる種族だ。それに対して自分は人間ダイバーである。自然、こちらにいられる時間には限りがある。こっちの時間は向こうの10倍であるため、結果的には同じぐらいの時間生きていることにはなるのだろうが、一日中ダイブし続けることは『バウガルドの酒場』の利用規定で制限がかかる。サービスの提供時間は、『ダイシイ』の開店時間だけだからだ。しかも、「葛城速人」は向こうでの仕事もまだ残っている。
 バウガルドへダイブできるのは仕事が終わった後ぐらいしかない。さすがに休みの日まで『ダイシイ』にきて、遊んでいられるわけではないのだ。

(やはり、従業員を雇うか――)

 露店商は『一代専業』の形態をとっているものが多い。つまり、商店主だけで切り盛りして、従業員を雇わないのだ。おそらくこの世界の住人たちは寿命が長い分ゆっくりと生きているからなのだろう。露店商なら一人で充分やっていけるし、従業員を雇うリスクも取らなくていいのだろう。事実、ハヤトもここまでそうしてきた。しかしこの形態でやり続けるにはやはり人間ダイバーの自分には限界がある。

 そんなことを考えていたが、ふと思い返す。
 そもそもハヤトはこの世界に何をしに来たのだろう?

 ――この世界で金持ちになって富豪にでもなるつもりか?
 ――商店の規模を拡大して、事業拡大して、名を残すためか?
 ――豪商となって、政治権力に影響を与えるためか?
 
 どれも違う。

 自分は、この世界で「」だったはずだ。
 自身の才覚と力のみが頼りのこの世界で、自分の足で道を拓いて、初めてみるものに感動し、初めて触れる人と接したい。ただそれだけだったはずだ。
 
(ははは、欲というものは目的を見失わせる麻薬のようなものだな――)

 

 やはり、先へ進もう――。


 師匠のように弟子を取って後継者を育てるのもいいが、それには自分はまだまだ経験が足りない。もっとこの世界を知らなければ。それからでも遅くはない。

 
 そうだ、私には時間はのだから――。



 次のダイブの日、ハヤトは荷物を抱えてはじまりの街ケルンを出た。


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