26 / 44
『竜撃』キョウヤと呼ばれるまでには
第25話 『竜撃』の伝説
しおりを挟む金ぴかの鎧、金色の鞘のロングソード、そして背中に背負う大楯。
だいぶんとこの格好も板についてきた。
キョウヤは基本的にはソロ活動をしている。
まわりの冒険者連中はパーティを組んでわいわいやっている様子だが、結局はパーティ内の男女関係(雄雌関係?)やら、人間関係(ボスの奪い合い?)でごたごたしているところが多い。
そんなものに関わるぐらいなら、一人の方が身軽なうえに自由も効く。
(それにパーティメンバーの命を背負わなくていい――)
バウガルドは素晴らしい世界だった。
すべては自己責任。しかし、時間は向こうの世界の10分の1のスピードで流れている。つまり、こちらにいる限り寿命が10倍になるのと同じだ。こちらで丸一日過ごしても向こうの時間では144分。つまり、2時間半にも満たない。
ところが、こちらで鍛えた体は、そのまま向こうの世界の体にも反映される。つまり、こちらで30日トレーニングしても、向こう時間では3日しかたっていないことになるのだ。
そして死なない限り、大怪我をしても再ログインすれば完全完治の状態で戻ってこれる。
文明の発展は向こうの世界には到底及ばない。電気もコンピューターもないし、水道すらない。
しかしそれを抜きにしてもお釣りがくるほどのものがこちらにはある。
一つはさっきも言った、「時間」だ。
そしてもう一つが、「魔法」だった。
「魔法」――。
あちらの世界では絶対に実現できない現象をこちらの世界では起こすことができる。何もないところから水や火を生み出したり、向こうでは生死にかかわるような大怪我も治癒できたりする。
遠く離れたところに一瞬で移動したり、空を飛んだりすることだって可能だ。
そんなものがあれば、「科学」が発達しないのはある意味当然のことなのかもしれない。
人間が生身では作り出すことができない膨大なエネルギーを生み出し、すべて人間の生活を便利にする目的のために資源、つまり地球そのものを食い荒らしてゆく技術――。
もしかしたらそれこそが「科学」というものの本質なのかもしれないとキョウヤは感じることがある。
もちろん、その「科学」がなければ人間の世界には今のような文明は育っていなかっただろう。
しかし、もし「魔法」が存在すれば――。
(いや、それは何の意味もない仮定だ。現に向こうの世界にそれはないのだから。あれば云々なんてのはファンタジーの世界の中だけの話だ)
これまではそうだったかもしれない。
でも、今は『バウガルドの酒場』がある。
異世界旅行は危険だという声があちらではまことしやかに言われている。
実際、何人かの人たちがこのサービスによる旅行で命を落としているということも聞いている。
しかしよく考えてみてほしい。
あちらの世界でも理不尽に殺されたり、不慮の事故に巻き込まれたり、この時代になっても内戦や飢餓や貧困でたくさんの人が亡くなっているじゃないか。
通勤電車をホームで待っているひとが愉快犯に突き落とされたり、女をだまして金を巻き上げたうえになぶりものにするなんてことも日常茶飯事だ。
そんなことと比べたら、こっちの世界の方が「はるかに正常だ」。
すべては自分の判断と能力で、知恵を絞って、体を鍛えて、生き延びてゆく。いかに危険を回避しどうしても避けきれない場合にどう対処するか。そうやって日々を生きている。
「野蛮な世界」――。
そう言うニュースのコメンテーターもいる。
だけど彼または彼女は現実から目を背けているだけだ。自身の住んでいる世界は「高度な頭脳を持った人類が作り上げた理想郷」だとでも思っているのだろう。その陰でどれほどの人間が苦しみ足搔き死んでいっているのかを彼らは見てはいないのではないか。
(そんなこと、今考えても仕方ないことだが――)
キョウヤは目の前にそびえたつ切り立った山脈の頂を見上げながら、気を引き締める。
ここまで実に10年かかった。もちろんこちら世界での話だが。
つまり、向こう時間で1年だ。
「ダイシイ」羽原支店に通うのもおそらく今日で一区切りになるだろう。
(まあ、生き残れたらの話だけどな――)
――バウガルドには四聖竜ってのがいてな。そいつらは超レア装備をドロップするらしい。
そんな伝説がこの地には残っている。
しかも討伐後はしばらくの間再出現しないらしい。その間隔は500年とか1000年とか言われている、らしい。
「らしい」というのは最近では誰もまだ成し得ていないからだという。
遥か昔、それこそ数千年前に、『竜撃』と呼ばれた勇者がいたといわれている。もうそこまで行くといわゆるおとぎ話の世界だ。いくらこちらの世界の亜人種といえども千年生きるものはいない。なので、実際にその者に会ったものはすでにこの世にはいないのだ。
しかし、四聖竜の存在は確かな情報だった。東西南北の極地帯にそれは存在している。これについてはしっかりと目撃情報があるから間違いないとのことだ。
その一つ、北のグランベルク山山頂の祠に青龍クアドラが雌伏しているとのことだった。
そして今、キョウヤはこの山の目の前にいる。
目的は言うまでもない。青龍クアドラの討伐だ。
そのためにキョウヤはずっとソロでやってきたのだ。過酷な状況に身を置くことで、身体的にも精神的にも、そして、戦術知識においても、自分一人の体ならどうとでもできるというところまで鍛え上げた。
今のキョウヤなら、「一人でいる限り」どのような過酷な状況からでも「帰還できる」だろう。
そう、「帰還」はできる。
しかし今回は、それが目的ではない。あくまでも「討伐」が目的だ。
キョウヤは覚悟を決めて歩み始めた。もう少しで青龍と相見えられるだろう。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
最強の異世界やりすぎ旅行記
萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。
そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。
「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」
バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!?
最強が無双する異世界ファンタジー開幕!
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる