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ファンタジー好き女子高生の一人旅
第28話 好奇心、それはすべてのはじまり
しおりを挟む南野麻衣は子供のころから幻想小説というものが大好きだった。
小学校の時に図書館で読んだ、あの本、『レジェンドオブシルヴェリア』は麻衣に強烈な衝撃を与えた。
主人公の男の子はただの農夫だったが、ある時一人の剣士と出会って壮大な冒険が始まる。その後さまざまな仲間、様々な種族との邂逅、そして最後には世界を救う英雄となった。
放課後になると図書館へ行き、次の巻をまた借りて、ひと晩かからずに読み切ってはまた、次の日に次の巻を借りて読んだ。
お父さんも無類のゲーム好きであったため、家にゲーム機なるものはいろいろとあったが、なかでも、MMORPGに至っては、お父さんが仕事に行っている間に、パソコンを拝借して、ログインしては狩りにいそしんだものだ。
お父さんが帰ってきたら、パソコンはお父さんが使うために明け渡さなければならない。
そうなったら、また図書館で借りてきた本を読む。
そんな小学校時代だった。
さすがに中学生にもなると、部活やら、試験勉強やらでMMORPGにログインしている時間が減ってゆき、たまの気休めに、携帯端末でアプリなどを触る程度になっていた。
そんな麻衣に転機が訪れたのは、高校2年になった辺りだった。
高校は大阪の市内の私立高校だったので、麻衣の自宅からは地下鉄で数駅向こうまで通学していたが、1年生の間は中学生から続けていた剣道の部活に参加していたのだが、なかなか先輩たちや同級生とうまくなじめずに結局1年の終わりと同時に退部することにした。
剣道というスポーツ自体は好きだったが、私立高校の部活はやはり成績重視の傾向が強く、剣道の精神というより、いかに相手に勝つかという技術重視の練習にはすこし嫌気がさしていたといってもいいかもしれない。
そんなことから先輩たちや同級生の部活仲間からは少し浮いていたともいえる。
高校2年になっても、漠然と進学希望だったが大学受験に対する意欲が起こるわけでもなく、ただ空いた時間を持て余していた。いつからか、好きだった幻想小説からも距離ができてしまっていた。
そんな時だ。
『異世界で思う存分自分を試してみませんか?――バウガルドの酒場、好評サービス中』
という、のぼりを見かけた。
それはいつも通学時に地下鉄の駅へ向かうときに通りぬける商店街の、立ち並ぶ店の間にひっそりとたてられていた。
何のことか一瞬理解が追い付かなかったが、どうやらそののぼりはビルの2階にあるボドゲカフェのものらしいということが最下部に書かれている店名で判明した。
「どういうことだろう?」
その日は結局、そのまま地下鉄の駅へ向かい家路についたのだが、なんとなく気になるので、携帯端末を取り出して、『バウガルドの酒場』という語句を検索してみたのだった。
それから3日後。
麻衣はとうとう、そのボドゲカフェに足を踏み入れることになった。
ボドゲカフェというものの存在すら初めて知ったのだが、検索しているととても興味をそそられた。
実は昔遊んでいたMMORPGや、オンラインFPSなどは一定のやりがいはあるものの、あまり人と一緒に遊んでいるという感覚は得られなかった。
ボイスチャットという技術やメタバースとかいう技術もどんどん進化していったのだが、やはりなんというか生のつながりというものを得るにはやや物足りない。
(それに何といっても、結局は作り物の世界、超課金者優遇の世界だ。私のような高校生がそんな世界で戦うには最終的には金銭的なところで限界があるのだ)
そういう現実を突きつけられて終わってしまう。
どれだけ熟練しても、やりこんでも、最後には金銭的に裕福なものが上位を占めてしまう。
しかし、アナログゲームというのはそれがないに等しい。
「知恵と運」
まさしくそれのみ。
アナログゲーム、ことに、ボードゲームというのは皆が全く同じ条件からスタートするという。
対戦型カードゲームというものが小さいころに同級生の男子たちの間で流行っていたが結局それもアプリゲームと同様に、高課金組優遇であることに変わりはなかった。
横一線からスタートし、知恵と運、時には駆け引きを行って、自身の勝利を目指す。それがボードゲームというものらしいとSNSの記事で読んだ。
麻衣自身、これまでゲームと言えばデジタルゲームであって、アナログゲームというものに触れたことはなかった。
そんなことより――。
「異世界――」
それはどんなところなのだろう。ただただ、それが知りたかった。
SNSに上がっている意見はそれこそ賛否両論だった。死人が出ているということも言われていた。
まさしく、「知恵と力」の世界。そしてそれは、ゲーム利用の料金のみで始められる。というより、みんなそこからしか始められないのだ。初めから資金を投入してレアアイテムガチガチ装備で恩恵レベルアップとか、そんなものは全く皆無。
(話だけでも聞いてみたい――)
そんなただの好奇心から始まった。
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