異世界旅行は命がけですがよろしいですか?―バウガルドの酒場冒険譚

永礼 経

文字の大きさ
30 / 44
ファンタジー好き女子高生の一人旅

第29話 あの人の隣にいつか

しおりを挟む

「ったく、なんなのよぉ~」

 マイは体中にぬめぬめとまとわりついた粘膜体を引きはがすのに四苦八苦していた。
 
「うへぇ、きもちわるいぃ~。それに、めっちゃ臭い~」

(いくらここのバブリージュエルのドロップがおいしいといっても、これはちょっとはずれだわぁ。明日からは狩場を変えようっと――)

 マイは「ソロ」だった。
 バウガルドに来てからはすでに半年がたっている。とはいえ、向こう時間ではまだせいぜい2週間ちょっとだ。

 剣道を幼児のころからやっていたマイは、剣の使い方には何となく勘があったので、剣を振るうことには特に違和感がなかった。さすがに、ロングソードやショートソードなどの両刃の洋式剣は少し扱いにくかったので、初めのころだけショートソードを使っていたが、お金がたまるとすぐにニホントウ形式の刀剣に変えた。

 これがマイにはよく馴染んだ。

 まさしく、「水を得た魚」のように、技術はどんどん向上し、一気に中級冒険者にまで到達した。現在のマイのクラスは銀級冒険者シルバークラスだ。拠点はすでに始まりの町ケルンから、ここ、ニューズレイトへ移してだいぶん経つ。

(そろそろここも終盤しおどきかなぁ。次の拠点に移った方がいいのかも。でも、この先ってパーティじゃないときついってみんな言ってるんだよなぁ)

 今はそこで思案しているところだった。
 先の拠点に進むためにパーティに加えてもらうか、まだしばらくこのニューズレイト周辺をソロでちまちまとやっていくかの二択になっているのだ。

 ソロ活動を続け、安全を期するなら、もう一段階上の装備に切り替えるまではここでちまちまやるしかない。しかしその一段階上っていうのが厄介なのだ。

 『バウガルド』にダイブしてから少し経った頃に気が付いたことなのだが、この世界には実はパラメータというものが存在しているように感じる。

 しかしそういうウインドウやUI(ユーザーズインターフェース)などは存在していない。つまり隠れ要素なのだろう。
 マイは自身のその見えない「パラメータ」上では、筋力と敏捷値に特化した軽量級戦士スタイルだと思っている。そういうものは別に存在していないのだが、いわゆるイメージの問題だ。

 ある時、はじまりの酒場のリノさん、に聞こうと思ったのだが少し怖くて聞けず、結局、給仕のフィーリャさんに聞いてみたのだが、そんなものはないと彼女は言い切った。つまり「パラメータ」というのは結局はマイの妄想に過ぎなかった。

 しかし、一定の筋力がないと扱えない武器や、一定の体格がないと装備できない防具などがあると、過去のゲームオタクのマイにはそう感じてしまうのも無理はないのだろう。

(一段階上の装備を整えるためにはあと半年ぐらいここでやらないとたまらないんだよねえ~。なんかいい方法ないっかな~)
 そんなことを思いつつ今日のところは今倒したバブリースライムで一区切りして、一旦街へもどってドロップ品の整理や売却、装備品の手入れや修繕を済ませてから、あっちの世界へ戻ろうと意を決して歩き始めた。 
  
 
 バブリースライムが出現するケルガオ沼地からニューズレイトまでは30分ほどの距離だ。すでに日は傾き始めているが、暗くなるまでには戻れるだろう。

 マイは最近、はじまりの酒場からニューズレイトまで馬を使ってくるか、もしくは、『キャリアー』を雇って運んでもらっている。
 『キャリアー』というのは一種の魔法使いで、「ハイト」という高速移動魔法を使う者たちだ。このハイトという魔法、とても便利な魔法なのだが、かなり習得が難しいため、いつもはじまりの酒場に習得者がいるというわけではないのだ。
 うまく出会うことができたときはこれを利用しているが、基本的には馬を使っている。

 ダイブ地点を移すこともできるらしいのだが、はじまりの街ケルンはいろいろなところで利用価値が高く情報も集まりやすい。この世界はただ先へ先へと進んでいくだけでは効率的にスキルアップができない仕組みになっている。狩場情報やドロップ情報を仕入れるためにはやはりケルンが望ましいのだ。

(それにあの人に会える確率も高いしね――)

 ふとよぎったあの人との出会いの時を思い起こし、ああ、もうあれから2カ月もたつのかと思うと、急に寂しくなり、涙が流れた。

(いつかあの人の隣に立ちたい)
その為に今は「ソロ」を続けているのだ。

(あの人も一人でやり切ったと聞いた。ソロでやっていくために必要なこともたくさん教えてくれた。だから、わたしも一人で頑張るって決めたんだ。そしていつかあの人の初めてのパーティメンバーになるんだ) 
 
 マイは流れ落ちた涙をぬぐって、帰り道を急いだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界で貧乏神を守護神に選ぶのは間違っているのだろうか?

石のやっさん
ファンタジー
異世界への転移、僕にはもう祝福を受けた女神様が居ます! 主人公の黒木翼はクラスでは浮いた存在だった。 黒木はある理由から人との関りを最小限に押さえ生活していた。 そんなある日の事、クラス全員が異世界召喚に巻き込まれる。 全員が女神からジョブやチートを貰うなか、黒木はあえて断り、何も貰わずに異世界に行く事にした。 その理由は、彼にはもう『貧乏神』の守護神が居たからだ。 この物語は、貧乏神に恋する少年と少年を愛する貧乏神が異世界で暮す物語。 貧乏神の解釈が独自解釈ですので、その辺りはお許し下さい。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...