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悲しみのケイロス岬
第35話 旅は道連れ
しおりを挟むエルフィーリエ・リートクライフ――。
それが彼女の名だ。
私のこの世界で唯一のパートナー。
「エルフィ! バフお願い!」
ケイコの叫びが木霊した。
「OK! 今行くよ! アンチフレイム!」
エルフィと呼ばれた女性神官が高々と長杖を掲げると、まばゆい光がケイコを包み、やがて消失する。
目の前に迫るサラマンドラは今にも炎のブレスを吐き出さんとしていた。
ゴァアアアアアアァァァァ―――!
次の瞬間ケイコはその炎のブレスをまともに浴びた。
が、エルフィーリエの防御バフ魔法によって炎のダメージは無効化される。
ケイコは、その炎をものともせず、ブレスの中を一直線に疾走した。
そしてそのまままっすぐにサラマンドラの開けた顎の中へ、細身のレイピアの剣先を突き込んでゆく。
その切っ先は見事に顎の中を走り、サラマンドラの脳天を内側から貫いた。
瞬間、生命活動を停止したサラマンドラはその場に頽れる。
「お? おわあああああ――」
ケイコの真上にサラマンドラの死骸が倒れこんできたのだ。
「ウィンドブロウ!」
ケイコの後方からすさまじい突風が吹きこんでくると、そのサラマンドラの死骸を浮き上がらせ、押しやった。
死骸はケイコの目前数メートルのところに横倒しになる。
「あんたねぇ――。詰めが甘いのよ、詰めが!」
エルフィーリエがケイコに詰め寄る。
「あ、はい、すいません。以後気を付けます」
しおらしく詫びるケイコ。
「くっ、ははは、なんて顔してんのよ。冗談よ。それより、大物だったわね――」
エルフィーリエは目の前に転がるサラマンドラの死骸を見やって言った。
「さてと――。私は神官だから死体の処理は出来ないからね? わかってると思うけど、あんたがやんなさいよ?」
そういうとエルフィーリエはそばの岩に腰かけて、
「ねぇ、ケイコ。このクエ消化したらさ、いよいよ拠点移さないとだよ?」
と口ごちる。
そうなのだ。
現在の拠点で受けられるクエストはすでにクラス上限いっぱいのものになっている。このサラマンドラより上の魔獣は、もう今の拠点の周辺には出現しないのだ。
討伐クエストでこれ以上上位のモンスターを狩るには、拠点を移さなければならない。
ケイコがバウガルドにダイブするようになってから日本時間で3年が経っていた。バウガルド時間で言えば30年という事になる。もちろんずっとダイブしているわけではないので実質稼働時間は30年とまでは行かないが、「テスター」としてここに来るようになってからこちら時間で30年が経過していることは事実だ。
この世界は不思議な世界だった。
時間が早く過ぎているのに、時代はゆっくりとしか進んでいない。ほとんど何も変わらないのだ。
それには理由があることが分かった。
「魔法」の存在だ。
この世界には「魔法」が存在している。
この力は本当に便利なものだ。だいたい、無から有を生み出すなんてことは日本、いや「私たちの世界」では考えられないことだ。人類はそれをできる限り可能ならしめんと、錬金術から科学へと形態を変えながら、「文明」を発展させてきた。
そうして今や、地球という枠をも超えようと日々研究を続けている。
人類の世界は、ただひたすらに広がってゆくのみだ。
しかしこの世界にはそのようなものは必要ない。
「いまのままで充分」なのだ。
電気というものは存在しない。「魔法」で、灯りを点すことも可能だからだ。
飛行機もない。「魔法」で空を飛べるからだ。
コンピューターもない。「魔法」があればそんな難しく複雑な演算も必要ないからだ。だいたい世界がそこまで複雑ではない。
「力と知恵、そして運」
これのみがこの世界のすべてであり、必要不可欠なものだ。
この世界の古い時代を知る者たちの話によると、初めからこのような形ではなかったという。
何のことかと言うと、いわゆる魔獣のことだ。
いまでは、ケルン周辺に出没する魔獣は弱く驚異も低いものたちばかりだ。そこから離れるごとに少しづつ強力な魔獣が出没するようになる。最果ての地には、この世界最強と言われる、ドラゴンが存在しているともいわれている。
つまり、ケルンからすこしずつ離れることで、強力な魔獣と出会うようになるのであって、ケルン周辺では不慣れなもので訓練を始めたばかりのものでも、慢心せず、訓練と注意を怠らない限り、ケガをすることはあっても、命を落とすようなことにはならないのだ。
でも昔はケルン周辺でも時には驚異的な魔獣が出現していたと言われている。それがとてつもなく長い時間をかけて、この変わらない世界が唯一変わっていったところだというのだ。その変化の裏にあったのが「魔法」と「冒険者」だった。
冒険者たちは魔法を扱い冒険者たちで協力し合い、町周辺の脅威を排除していった。その範囲は徐々に徐々にとケルンの町から広がってゆき、その結果として、ケルンを中心に円心状に魔獣の強度が上がってゆくような、そんな状況になったというのだ。
「次の拠点かぁ――」
ケイコはつぶやいた。
「そうよ、ケイコ。先に進まなきゃ。これ以上私たちの出来ることはここにはないのよ」
エルフィーリエはそう言って、先へと進むことを促してくる。
「じゃあ次の拠点は――」
「「ジェノア!!」」
2人は顔を見合わせて同時に叫ぶ。二人の意思が合致して、見事にハモった。
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