異世界旅行は命がけですがよろしいですか?―バウガルドの酒場冒険譚

永礼 経

文字の大きさ
43 / 44
悲しみのケイロス岬

第42話 人はいつか別れを迎える、そしてまた歩く

しおりを挟む

 ケイコとエルフィーリエの冒険はそろそろ終わりを告げる。

 あの後、ケイロス岬洞窟は冒険者ギルドによって「要探索迷宮」として登録された。
 これは、冒険者ギルドの公式依頼となる、「ダンジョン探索」クエストの対象ダンジョンとなったということだ。
 つまり、この洞窟内の構造をしっかりと探索してマッピングすることで報酬を得られる対象となったというわけだ。
 これまでにも様々な場所でこのように「要探索迷宮」に登録されている箇所はある。そのどれもが、構造が複雑であったり、強力なモンスターが巣食っていたりしていて、いわゆる「初見殺し」的な側面を持つ「要注意探索対象」である。

 ケイロス岬洞窟もその構造が複雑で分岐も多く、かなり入り組んでいるとみられるため、ケイコとエルフィーリエがその認定を申請したのだ。
 あのエルフ男のパーティの行方はケイコたち二人では探し当てられなかったが、その構造の特徴についてはギルドに報告しておいたので、それほど時間もかからず、何らかの痕跡が見つかるだろうと思われる。

 これにて、ケイロス岬洞窟におけるケイコとエルフィーリエの仕事は終わった。

 今二人はジェノアの酒場に戻っており、次の目的地を思案していた。

「ケイコ、やっぱり、、じゃない?」
、ねぇ」
「だってもうここまで来てしまってるんだよ? あとはホントかどうか確かめる必要はあるんじゃないの? あんたの仕事的には」

 エルフィーリエのいうケイコの仕事とは「テスター」のことを指して言っているのは明白だ。そして、「あれ」というのは――。

「北にするか東にするか――。どっちも大体同じぐらいの距離だよ?」

「そうねぇ。でも、たぶん、手も足も出ないよ?」
「でも、やっぱ、確かめないと、だよねぇ。いるのかいないのか――」
「う~ん。そうだよねぇ。いるといないとでは全然違うもんねぇ」
「見るだけ見たら、ハイトで逃げましょ。あんたは緊急帰還使えばいいじゃん。それで、この冒険は終わり。はじまりの酒場リノズバルで落ち合いましょ」

「…………」

「ケイコ? いい? わかったわね?」

「……。エリー、私、あなたともっと冒険したい……。ダメ? かな――」

「ありがとうね、ケイコ。そういってくれるのはうれしいのよ。でもね、私たちはそもそも住んでいる世界が違うの。いつまでも一緒には歩けないのよ」

 エルフィーリエはテーブルの上に投げ出されたケイコの両手を包むように握った。 

「私も、そろそろ引退しようと思っているの。子供も欲しいしね。エルフ族は確かに長寿の部類に入るわ。私だってまだ220歳ぐらいだし。でもね、そのエルフがこうやって前線で活躍できるのは意外と短いのよね。たぶん300歳ぐらいが限界かな。それと同時に、出産適齢期も短いのよ、これも300歳ぐらいまでなの。つまり、このまま冒険者をやってると、子供を産むことができなくなっちゃうのよ」

「エリー、まさかあなた――」

「あーあーあー、それはまだないわ。これから、よ。だから、前線からは引退しようと思う。少し引いたエリアで、職人か商人をして稼ぎつつ伴侶を探そうと思うわ。お相手は職人か商人がいいわね。冒険者経験者は私一人で充分よ。子供がもしこれを目指すなら、私が稽古をつけるし、職人の道を選ぶならその伴侶が面倒を見るでしょう」

「で、でも、私の仕事はまだ、終わらないのよ? この最果てのエリアを一通り見て回らないとだし――」

「だからよ。他のメンバーとともに歩みなさい。前線のパーティに入って、前線の冒険者と一緒に行きなさい。私といるより多くのことを学べるはず。あなたももうわかってるはずよ?」

「いや、いやだ、エリー、まだ一緒にいたいよ」

「ったく、しょうがない甘えん坊さんね。でも、あなたの目的は何? この世界を日本の人たちに届けることでしょう? 私は早くあなたのような「人間」たちにもっとたくさん出会いたいわ」

「でも――。でも――」

「ケイコ、人はいつか別れるものよ。でも、その別れを先延ばしにして、今歩むことをやめるのは私は違うと思うの。ケイコにもそう思ってほしいと、私は望んでいる。だいじょうぶ! 私はいつも街にいるわよ。会えなくなるわけじゃない。また一緒においしいもの食べたり、旅行行ったりしましょう。そのためにも安全な観光地、あなたが見つけてよね」
 そう言ったのを最後にエルフィーリエは、名残惜しそうに、しかし、決意を込めてケイコの手を離した。


******


 それからまた、10年が経過した。日本時間では1年だ。

 最果てエリアの探索はほぼ完了した。ある程度の危険個所もすべてマップデータに登録されている。このマップデータがあれば、この後、バウガルドに訪れるダイバーたちも安心して世界を満喫できるだろう。

 西暦2032年9月――。
 『バウガルドの酒場』の正式サービス開始まであと一月となっていた。

 圭子と「ダイシイ」のメンバーたちは最終確認に入っている。
 結局最果てエリアに到達したテスターは圭子一人だけだった。この一年の間に、前線の冒険者パーティに交じりながら最果てエリアの探索を終えたケイコのデータをもとに、バウガルドのマップデータが構築されて行っている。

 この作業が終われば、圭子の仕事も一段落する。正直、この一月ほどは「ダイブ」している時間的余裕はなかった。データ作業の確認と訂正箇所の洗い出しに時間が溶けていった。

 それでも圭子は毎日が充実していた。
 もうすぐだ、もうすぐあの世界を日本のみんなに披露できる。新しい世界と新しい人類、生の体験ができるバウガルドそこはまさしく夢のような現実の世界だ。

「ケイコ君~。このホーラッド渓谷なんだけど、危険レベル3でいいかな? 4じゃなくても大丈夫?」
店長の声が開店前の「ダイシイ」店内に木霊こだまする。

 また私が呼ばれているようだ。

「はーい、ちょっと見に行きますから、待っててくださいー」
ケイコは今手にしていた、冒険者証プレートを素早くポケットに放り込んで、返事をした。

 そのポケットの中の白金級冒険者証プラチナプレートの裏には次の2行が彫られている。

『エルフィーリエ・リートクライフ、
東の極点にてアイスドラゴンの存在確認。これをもって引退す』 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

処理中です...