異世界旅行は命がけですがよろしいですか?―バウガルドの酒場冒険譚

永礼 経

文字の大きさ
42 / 44
悲しみのケイロス岬

第41話 これでよかったのだと信じたい

しおりを挟む

「ちょ、ケイコ? ケイコ! どういうことなのよ?」
エルフィーリエはケイコの後ろを追って声をかける。
「洞窟を出て、どこに行くつもり?」

 ケイロス岬までは森の小道の一本道だった。つまり、このあたりで「狩り」をするとしたら、この小道からそう遠くない場所でできるだけ開けた場所がいい。
 バウガルドの「仕様」ともいえる、魔物の出現範囲は、人工物外であることである。つまり、このように人が通ったことによってできる「道」に魔物は進入してこない。魔物が出現するとすればこのあたりでは道の両脇に広がる「森」の中だ。

 エリーヌの想い人もおそらくこのあたりのフィールドモンスターを狩っていたのだろう。それは彼が金級冒険者ゴールドクラスという事から推測できる。
 ケイコたち二人はすでに白金級冒険者プラチナクラスだ。であればこそ、あの洞窟に侵入していった。通常あのような迷宮には強力なモンスターが棲みついている可能性があるため、クラス外冒険者は近づかないのが鉄則だ。

「あ、あった! あのあたり、少し開けてる。あそこなら狩りにちょうどいいかも――」
ケイコは目ざとくその場所を見つけた。
 こういった狩場を見る目はこれまでの経験で養われている。ケイコはエルフィーリエの方を振り返ると、指示を飛ばす。
魔物出現区域フィールドに入るよ。魔物に出くわすかもだから、警戒、よろしく――」

「え? あ、ああ、分かったけど、どうして――」
エルフィーリエはまだ理解しきれていない様子だった。

「たぶん、あのあたりに何かあるはず――」

 ケイコはいったい何を探しているのだろうか、エルフィーリエには全く見当がつかない。ともあれ、周囲に魔物の気配がないか即時に探り始める。それがエルフィーリエの役割だ。どんな時でもこれを怠るようなことはない。

 ケイコが先陣を切って森の中へ入ってゆく。小道から少し入ったあたりに少し開けた草原区域があった。
「エリー、このあたりを探索するから、周辺警戒お願い――」
「オッケー、なんだかわからないけど、まかせて」

 ケイコはその草原区域を身をかがめて注意深く探索していく。

(あった! やっぱり……。そういう事だったのね――)
ケイコが見つけたのは、ブーツの跡だ。かなり大きい。おそらく男性のものだろう。

 注意深く足跡の痕跡を追う。
 しっかりとした形があるものは大地を踏み込んだ後だろうか。つまり、打ち込みを掛けた痕跡だろう。やはり、いたるところにブーツの跡がまだ残っている。しかしこれだけではアンドリューのものとは決定づけられない。あのエルフ男のパーティもこのあたりで狩りをしていたと言っていた。彼らのものの方かもしれないのだ。

 さらに探索を続けていて、分かったことが一つ増えた。足跡は一種類しかない。つまりは、パーティではなくソロでモンスターと争ったと思われる。

 足跡はこの開けた草原地帯から、森の中へと向かっている。心なしか先程より少し足取りが弱々しく感じる。

「エリー、森の中へ入るわよ?」
「いいよ、周辺に魔物の気配はまだ現れていないわ」

 ケイコはエルフィーリエに頷き返すと、足跡を追って森の中へと進んでいく。エルフィーリエも周辺警戒しつつケイコの後を追う。

 数メートル進んだろうか。
 先程の草原地が木々に隠れかけたあたりで、ケイコが歩みを止めた。

「ケイコ? どうしたの?」
「エリー、見つけたわよ――」

 そう言って指さした先を見やったエルフィーリエはそこにあるものを見て小さく悲鳴を上げた。
「ひっ! あ、あれって――」

「ええ、間違いないわ。アンドリューよ――」


 その後、ケイコはアンドリューだったものの位置をしっかりとマップに記した。残念だが、ケイコたち二人ではそれを弔ってやることは出来なさそうだ。こういう仕事はギルドへ任せた方がいい。
 ただ、アンドリューの遺体はすでに白骨化しており、装備品も散らばったままだ。肉片はすべて綺麗に魔物か小動物に処理されていたため、形の分かるもので間違いのないもの、つまり、頭蓋骨部分だけを持っていくことにした。

「ケイコ、もしかしてそれを?」
「ええ、そうね。それでどうにかなるかなんてわからないけど、せめて会わせてあげたいじゃない?」
「そうね――」

 幸いフィールドでも魔物と遭遇することはなく、二人はまた洞窟内の泉まで戻ってきた。

『あああ、アンドリュー、アンドリューなのね――』
声が悲しくむせび泣く。

 ケイコは頭蓋骨を泉の水で綺麗に洗って、その淵に置いてやったのだ。

 その時とても不思議なことが起きた。いや、もう何を見ても驚きはすまい。
 泉の上に一人の男の姿が浮かび上がる。

 男はエルフ族で美しい容姿であった。ケイコには年齢はよくわからないが、人間で言えば30代前半といったところか。
 次いで白いもやが泉の方へと吸い寄せられるように移動してゆき、そこに今度は美しい女性の姿が現れる。こちらも男と同じエルフ族だろう。

 二人は幸せそうに抱き合い、そうしてそのまま交じり合い、泉の中へと消えていった。

『ありがとう、ケイコ、エルフィーリエ。本当にありがとう――』

 最後にそのように聞こえたような気がしたが、本当にそう言ったのかどうか、結局確かめることは出来なかった。もうその声が二人に語り掛けることがなかったからだ。ただ不思議なことに、泉の淵に置いたはずの頭蓋骨は消えてしまっていた。

 結局そのあと、泉の脇にこれまで気づかなかった通路を発見した二人がそこを先に進むと、おそらく洞窟の最下層と思われる場所に辿り着いた。
 そこにはバジリスクが一匹潜んでいた。
 魔物に出会えばやるべきことは一つだ。二人は冒険者なのだから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

異世界で貧乏神を守護神に選ぶのは間違っているのだろうか?

石のやっさん
ファンタジー
異世界への転移、僕にはもう祝福を受けた女神様が居ます! 主人公の黒木翼はクラスでは浮いた存在だった。 黒木はある理由から人との関りを最小限に押さえ生活していた。 そんなある日の事、クラス全員が異世界召喚に巻き込まれる。 全員が女神からジョブやチートを貰うなか、黒木はあえて断り、何も貰わずに異世界に行く事にした。 その理由は、彼にはもう『貧乏神』の守護神が居たからだ。 この物語は、貧乏神に恋する少年と少年を愛する貧乏神が異世界で暮す物語。 貧乏神の解釈が独自解釈ですので、その辺りはお許し下さい。

処理中です...