お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。

永礼 経

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第293話 デリオの最期

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 デリオ・カマルディエルは目を疑った。
 この艦隊が負けるなど、だれも予想できなかったのに、その有様は散々なものだった。

 敵の艦隊の船の動きは、まるで異次元の船のように見えた。こちらの砲はことごとく外れ、向こうの砲弾はこちらの船体を正確にとらえている。

 また一つ、船が傾き崩れていくのが見えた。こちらの艦隊の船だ。デリオの乗るこの船ももう時間の問題だろう。

「どうすれば――」

 生き延びることができるのか?

 ここは海のど真ん中だ。遠くに見える陸地までは到底行き着けないだろう。

「無理か――」

 しかし、一縷の望みをかけて飛び込むしかない。船上にいる限り、相手の大砲を食らってしまう恐れが高い。また、接舷されれば乗り込まれて白兵戦になる。

 デリオに白兵戦は無理だ。
 何と言っても彼は、船員でもなければ、兵士でもない。無理やり寄せ集められた徴収兵の一人でしかないのだ。

 そもそもデリオは船大工に過ぎない。船の構造や木を加工する技術は持っていても、敵を切り伏せる技術は皆無なのだ。

 ぶかばざるか――。

 そう逡巡している間にも、砲音が轟き渡っている。
 あの中の一つでもここに命中したら、それはそれで一巻の終わりだ。

 ドオオオオン――――!

 ついにこの時が来てしまった。デリオの右手側数メートル先にさっきまでロープを握っていたはずのの姿が消えてなくなり、代わりに船体に大きな穴が穿たれたのが見えた。

 ヤザンは――ったか――。

 もう一瞬の迷いも許されない。デリオは意を決して海面に身を投げ出した。



――――――



 ん、んん――……。

 うう、さむい――。

 デリウスは体が芯から冷えているような感覚に見舞われ思わず身震いした。

 目を開くとそこはいつもの教授室で、自分はいつもは学生たちが座っている椅子に腰かけていた。

(夢――か?)

 周りを見渡すが、部屋には誰もいなかった。
 キールやミリア、アステリッドくんたちはどこかへ出かけているのだろう。

 窓が赤く染まっているのが見える。時間の感覚がないが、おそらく、夕方だろうか。
 
(ああ、そうだった。私はキール君に術式の発動を願い出たのだったな――。眠ってしまっていたのか?)

 おそらくそうなのだろう。見ると、膝の上にひざ掛けが掛けられている。
 さっきの「寒さ」が次第に遠のき、代わりに暑さがジワリと押し寄せてくる。
 10月も中旬になり、いくらか暑さは和らいできたとはいえ、涼しいと言えるほどでもない。

 デリウスはなかなか腰を上げることができずに、椅子に深く背を持たせかけたままの姿勢で、天井を見上げた。

 やはり、いつもの通りの「私の部屋」だ。デリウス・フォン・ゲイルハート。メストリル王立大学心学部教授。そして、今は学生たちの秘密拠点の主でもある。

 大丈夫だ。記憶を失ったり、自分が何者であるかを忘れていたりすることはない。

 やはり、前世の記憶だったのだ。

 これまで幼少のころからいくつも記憶に残る様々な「夢」。それは普通の「夢」ではなく、完全に意味がはっきりしている。時間の経過、因果のつながり、現れる空気の密度――。どれもくっきりと確実に「存在している」ものと認識できる感覚。

 デリウスがこれまで、「そう」かもしれないと思っていたものが今まさに「そう」であると結論付けされた感覚が沸き起こっていた。

(これが『前世の記憶』を取り戻すという事なのか――)

 刹那――。

 どっと押し寄せる恐怖、絶望感、喪失感、そして、寒さ――。

「う、うわあああああ! ああ、ああ、ああぁ――!」
 涙がとめどなく溢れ、息が苦しい。心臓がはちきれるほどの突き刺さるような痛みが体中を貫いた。

 デリウスは堪らず、身を丸くして両腕で自身を抱きしめる。

 震える体を抱きながら、必死に正気を保てと言い聞かせる。

(あれは、私ではない、私の記憶だ、それは私ではない、前の私だ――)

 そう言い聞かせる。
 自分でも何を言っているのかわからないが、はっきりとわかっているのだ。

(彼と私は別の人間なのだ――)

と。


 だだだだっ、と部屋の前の廊下を掛けてくる音がする。足音の正確な数はわからないが、おそらくキール君たちだろう。
 数秒後――、ドアがギィと音を立てて開かれた。

「教授! デリウス教授! 大丈夫ですか? 気が付かれましたか?」
と、まくし立ててているのは間違いない、キール・ヴァイスだ。

教授せんせい、落ち着いてください。大丈夫です、ここは教授せんせいの部屋ですよ?」
と、そう言って優しく肩を抱いてくれた少女はアステリッド・コルティーレだ。この子のこういう優しさは本当に癒しを与えてくれる。

「キール! 大丈夫なのよね!? 教授に何かあったらあんた、タダじゃおかないわよ!」
と、声を上げるのはミリア・ハインツフェルト。気丈ながら心配性の彼女はこういう形でしか自分を表現できない不器用さがあるかわいい少女だ。

 みんな、いい子たちばかりだ――。

「――あ、ああ。ありがとう、アステリッド、もう大丈夫だよ。心配ない。どうやら私は戻れたようだ――」
と、デリウスが言った。

 すっと体を放したアステリッドが、まだ心配そうな目で見つめている。
 
「ああ、どうやら、記憶が戻ったようだ――。、海戦で死んだ。それがはっきりと理解できたよ」

 デリウスはそう言うと、3人を見回した。
 そして、続けてこう言った。

「どうやら、私にもできることがある気がしてきた。――船を造ろうと思う……」

と。
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