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第307話 変容する世界、国家魔術院の使命
しおりを挟むその翌日――。
「船長! 見えたぜ! グアンデーラだ!」
そう言いながら船長室に入って来たのは、副長のミューゼルだった。
キールとミリアは漸くかと、立ち上がり、甲板に出ることにする。
「あれだ」
とミューゼルが指さした先には、まだ島らしき影は見えない。
が、薄く立ち上る煙のようなものが見えている。
「――今はまだ、噴煙しか見えんがあと数時間もすれば島影が見えるぜ」
と、ミューゼルが補足する。
なるほど、さすがはエルルート族の海図だ。
エランの港を出てから4日、ほぼ予定通りの日程で到達できたことになる。
「しかし、まさかあんな場所に上陸するなんてことになるとは思わなかったなぁ。俺も一度だけ降りたが、本当に何もないところだったぜ?」
と、ミューゼルは言うと、「じゃあ、また何かあったら呼ぶから」と言葉を残して持ち場に帰っていった。
「本当に、言った通りなのね――」
と、横からミリアが声をかけてくる。
「ん?」
と、キールが返す。
「いえ、この世界が球体だってこと」
「あ、ああ、そうだね。エルレアに行った時もそうだったけど、陸地ってのは高いところから徐々に見え始めるからね。平面だったとすれば、いきなり全体が見えるはずだからね」
そうなのだ。
ミリアたちこの世界の住人にとって、これまでは、「中央大陸プレート」のみがその世界のすべてだった。
が、2年前にエルルート族の船団が「レント(エルルート族は人間たちをそう呼んでいる)」の世界に姿を現し、「中央大陸」を取り囲んでいた「果ての世界」は今や「果て」ではなくなった。
「レント」たちは自身の大地の外にもまだ見ぬ土地があることを思い知らされたのだ。
そうして、レントとエルルートの邂逅により、我々レントの「この世界」に対する知識もより深まった。
その一つが、「世界は球体である」ということだった。
今ミリアが言ったのは、目的地である「グアンデーラ火山島」の火山から立ち上る噴煙を見て、改めてその事実を確認したことを言っているのだろう。
今は噴煙しか見えないが、時を追うごとに、その山頂から山麓へと徐々に姿を見せるはずだ。
「ミリアはこれが人生で2回目の航海だからね。前回行ったのはエルレアへ魔物討伐に行った時だったから。あの時は、ケウレアラの隠れ港から出て帰って来たんだったよね」
と、キールがミリアに告げた。
「ええ、あの時は私、ほとんど理解してなかったから、いま改めて、そうなんだなぁって思ってるのよ」
と、ミリアは正直に答える。
彼女もこの2年以上の間にいろいろと経験してきている。
学生時分の頃なら、これほど素直に自分の無知を告白するなんてことは無かったかもしれない。
「――ミリアも成長してるんだね?」
「なによ、それ? 私は今も昔も変わらないわよ」
「ははは、ごめんごめん。僕はもう結構あちこち行ったから、この世界のことが「前の世界」と同じような造りなんだなぁって改めて認識してるけどね」
キールの言う「前の世界」というのが、「前世」のこと指しているのをミリアは理解している。
「――でも、あんたの言う、その世界って、こんな船じゃなかったんでしょう?」
と、ミリアは返す。
その通りだ。
キールたちが今乗っている船は、基本的には木造帆船だ。
エルルートの造船技術はとても素晴らしいもので、木造でここまでの耐久性と走破性を兼ね備えているということに、デリウス教授も驚愕していた。
が、キールの前世、「原田桐雄」の時代には、鋼鉄製の船が主であり、その大きさもこの船とは比べるべくもない。また、推進力はスクリューをエンジンで回して得るもので、風を食んで推進力にするという帆船はすでに展示品や遊覧船としてしか利用されなくなっている。
「まあね。その時の「僕」はそんなに大きな船に乗ったことは無かったけど、僕はこの船の方が好きだなぁ」
「風を感じて、波に揺られて。ゆっくりと時間が過ぎていく――。地上ではあんなに人があくせくしてるのに。まったく、ここが同じ世界だなんて忘れてしまいそうになるわ……」
ミリアの境遇であればそれはなおさらのことだろう。
国家魔術院という組織は表向きは国に仕える優秀な魔術師たちを選定し訓練する機関とされている。
が、それは本当に表面的な部分でしかない。
その実態はいわゆる『諜報機関』のようなもので、各国に諜報員を忍ばせたり、秘密裏に各国の魔術院同士で情報交換をしたり、場合によっては、他国の魔術師を暗殺したりするという場合もある。
そのようなかなり暗い部分も持ち合わせている機関でもあるのだ。
まあ、今でこそ、この自由経済主義思想が根付いて来ている世界では、そう言ったきな臭いことも少しずつだが薄まってきていると言えた。
いや、「きていた」と言った方がいいか。
この数年の間に起きた出来事、主に、「電気技術の発明」と「エルルートとの邂逅」の二つによって世界は大変革期に入ったかもしれない。
そんな激動の時代と混沌は非常に相性がいい。
こういった時代だからこそ、様々な思惑が錯綜するものだというのは世の常、いわゆる『道理』と言うものだ。
そう言った世の中の動向を細かく注視し、国の舵取りの助言を行うことこそ、ミリアの所属する国家魔術院の使命である。
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