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第326話 二つ目の変化
しおりを挟む「警鐘」――。と、フランソワはこの「能力」のことを呼んでいる。
何かしら、不都合なことが身に迫っている場合に脳裏に響くキーンという音のことだ。
過去には、例えば、池に近づいた時に鳴ったことがあった。すると、池の縁がぬかるんでいて、危うく足を滑らせて落ちそうになったのを回避したことがある。
ほかにも、廊下の曲がり角で鳴った時は、そこで足を止めた瞬間、男子生徒が5~6人ほど勢いよく駆け込んできて、そのまま進んでいれば間違いなくぶつかって下手をすれば大怪我をするところだった。
まあ、そういう「虫の知らせ」のようなものが、かなりの高確率で危険を知らせてくれる。そんなものだった。
それを久しぶり聞いたのは、フランソワが魔術院の門をくぐった時のことだった。フランソワは一瞬立ち止まり、あたりの様子を窺った。しかし、特に危険な状況は起きない。
「警鐘」はまだ静かに響いている――。
(――? いつもならもっとはっきりと響くんだけど、今回のは少し様子が違いますわ――)
フランソワはゆっくりと歩み始めた。
すると、少しずつだが、音に変化が現れる。
徐々に大きくなってきている気がしたのだ。
(少しずつ近づいている?)
それでも、いつものようには響かない。どちらかと言うと、リーン、リーンと断続的に鳴っている。
フランソワは警戒しながらその音に導かれるように進んでゆく。
国家魔術院の建物の中を進んでゆくうちに、ある部屋の前まで辿り着いてしまった。
「――わかった。そちらの方の首尾は任せる。こちらは順調だ。「ラアナの神童」の誘拐計画はうまく行った。これでヘラルドカッツも動き出すだろう」
「いよいよ、ですね、院長」
「いや、ようやくだ。ここまで来るのに5年以上を費やしてしまった。向こうではすでに事が動き始めているというのに――だ」
「間に合いますか?」
「間に合わせねば、計画が破綻してしまう。何とかするさ――」
そんなやり取りが聞こえた。
話しているのはここの院長と誰かのようだ。
「警鐘」は相変わらず静かに響いている。
「じゃあな。うまくやるんだぞ? ここで計画が露呈してしまえばこれまでの事がすべて水の泡だ。慎重に行動するんだ――」
「はい、院長。それでは私はこれで――」
そう、片方の男が言ったあと、「警鐘」が急激に大きく鳴り響き始めた。
(このままでは見つかる――)
フランソワは慌てて周囲を見渡す。
すると、まさしく天の助けか、数歩先の壁に窪みがあり、そこに「柱」が立っていた。
あそこなら――。
フランソワは案外小柄な方だし、自身で言うのもなんだが、結構スリムな体型である。あの「柱」と壁の間に自分なら入れると確信した。
フランソワの行動は速かった。
こういう場合の行動の迅速さはこれまでの経験から身についている。
すぐさま、その柱に近づくと、柱と壁の間に自分の体を滑り込ませる。ややきついがそれでも隠れるには充分だ。
数瞬後、部屋から一人の男が出てくるのが見えた。
幸い、男は自分のいる方とは違う方向へと歩み去って行った。たぶん、院長と話していた男だろう。
そして、その数秒後、今度は一人の銀髪長髪の男が現れた。
(あの銀髪は――間違いない、国家魔術院院長のレイモンド・ワーデル・ロジャッド――)
そして、その院長もそのままその男の後を追うように去って行った。
「警鐘」はいつの間にか止まっていた。
(なんだったの今の――? 計画? 誘拐? 向こう? それに、何かに間に合わせるとかそんな風にも言っていた――。まさか――、どこかの国と通じている? それで、父を操って、「ラアナの神童」を誘拐させた――? わからない。でも、「警鐘」が報せてくれたことに間違いはない。これまでも、こういう時は何かが起きているのよ。今回も何か起きるのかも――)
もし仮にだ。
このレイモンドが他国のスパイだったとしよう。
その場合、話は単純だ。
レイモンドが院長に就任したのがつい先日のことだ。彼がこの魔術院に従事するようになったのは5年ほど前で、辻褄が合ってくる。
それまでは魔法の研鑽を積むという名目で、世界各地へ放浪の旅に出ていたと聞いたことがある。
そのレイモンドが、父に取り入って、「ラアナの神童」を誘拐させた。その「神童」と言うのが、クリストファー・ダン・ヴェラーニのことだとフランソワも知っている。
そして、彼がこの国にやってきたのは、父から今後のヘラルドカッツの発展のためだということも聞いている。彼がエリザベス・ヘア教授のもとで共に考古歴史学、主に『レーゲンの遺産』について研究していたことも知っている。
おそらく、今後、彼の知識によってヘラルドカッツの技術も発展することになるのだろう。
(すべて、レイモンドの計画のうち、ということ――?)
ヘラルドカッツの技術が発展すれば、何か良くないことが起きる――とでもいうのか?
そんな質問に対して「警鐘」は何も答えてはくれない。
(自分で調べるしかない――わよね)
そう、フランソワは決意した。
これが、二つ目の変化である。
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(追記2018.07.24)
お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。
今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。
ちなみに不審者は通り越しました。
(追記2018.07.26)
完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。
お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!
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