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第366話 「禁制品」
しおりを挟む「ったく、あの『英雄王』、何も話してなかったってわけか……」
キールは毒づいた。
「私たちはただ、『行けばわかる』っていわれて――」
「そうですよ。キールさんのことなんて一言も聞いてなかったですよ?」
ミリアもアステリッドも何が何やら理解できていない風だ。そりゃそうだろう。ただ行けばわかるとだけしか聞いていないのだ。それが本当に言葉通りならいいのだが、そうでない限り、説明する役割が必要になる。
――つまり、僕に全部説明を押し付けたってことだ。
「――二人にサプライスを、ということを考えてのことなら、『英雄王』らしいといえばらしいんだけど……。おかげで僕が全部説明しなきゃならないってわけだ」
キールは食堂のテーブルについて、先程運ばれてきたクラーサ茶を口に運んだ。
そして、「じゃあ、説明するね――」と言って話し始める。
キールがこの街、王都ノースレンドに潜伏してから一月ほどが過ぎている。その間、キールはこの街周辺の海上や沿岸を調査してまわっていた。
今回の仕事の大要は、「ある人物の捜索」だ。
その人物は数年前にエルレアの地から姿を消した有力領主の一人だという。
これまでのエルルート諜報員――『翡翠』の管轄するものたち――の調べによると、エルレアにこのレントの地の物品が出回っているようで、それがすでにもう何年も続いている。
ただ、これ自体は大した問題ではない。基本的にエルレアは各領主の自治領の集合体で構成されている。その自治に関して統一王朝は原則的な部分でしか介入しない。つまり、レントとの交流についても、『限定的にであれば』各領主の裁量にゆだねられている。何とも「緩い」話だが、つまりは、エルレアの存在や自分たちの素性などを「公」にせず、あくまでも『限定して』交流するのなら構わないという程度の縛りだった。
が、それも数年前の『大陸包囲事件』以降、形骸化している。
エルレアという土地とエルルート族の存在が「公」になった今、自分たちの存在を秘匿する必要がなくなったからに他ならない。
エルレアの各領主たちのなかには、これまでレントとの交流に消極的だったものたちまでもが、レントとの「交流(貿易)」に興味を持ち始め、自前の「大陸間輸送船」の建造を始めたほどだ。
ただ――。
エルレア統一王朝はその「貿易」に関して一定の規制を設けている。
「その一つが、『リーキの葉』だ」
と、キールが告げる。
「たしか、『リーキの葉』ってポーションの原料の一つよね? でも、あれは、ポーションと言ってもどちらかというと、『麻痺』系の効果の方だったと記憶しているけど?」
と、受けたのはミリアだった。
キールは、「さすが、ミリア」と軽く応じておいて、説明を続ける。
『リーキの葉』というのは聞いた通り、植物の葉を指している。その葉をすり潰して濾すと、葉に含まれた成分が抽出できるのだが、その成分には強い「麻酔作用」があるのだ。それに「薬師」が魔法を付与して「ポーション」を精製する。
「でも、麻痺ポーションって、そんなに使わないですよね? 魔法具屋にもあまりおいてないと思いますよ?」
とは、アステリッドだ。
その通りだ。
そもそも「ポーション」とは魔術師が魔力切れの際の緊急手段として携帯するものである。ならば、一番需要があるのは自身を回復させる「回復系ポーション」ということになる。怪我を修復する『治癒ポーション』や、魔力を一時的に補完する『魔力ポーション』などだ。
それに対して『麻痺ポーション』は、敵に投げつけて敵の動きを止めるもので、命中度の低さなども相まってそれほど使用頻度が高いとは言えない。それゆえに、冒険者や魔術師の間では不人気魔法道具となっている。
ところが、だ。
この『リーキの葉』が別の方法に使用されることはあまり知られていない。
キール自身もついぞこの間までそれが「この世界」に存在していることすら知らなかったのだが、それもそのはずで、それは『エルレアの極一部』でしか使用されていないものだったからだ。
それは、「タバコ」だ。
まあ、現代日本の一般的な「タバコ」とは少し違う。どちらかと言えば、いわゆる「麻薬」の類いだろう。
エルルート族の地エルレアにも、もちろん似たような成分を持つ植物の葉は存在する。しかし、この「リーキの葉」の陶酔効果はとても強いらしく、しかも、この「中央大陸」の限られた地域でしか生産されていない。
しかしながら、その陶酔効果が強すぎて、時間あたり摂取量によっては、エルルート族の中には拒絶反応で死に至るものもいるというぐらいで、エルレア統一王朝は、これを「輸入不可物品」と規定している。
「エルルート族にとっては少し危険な物品になっていて、もちろん広く一般に流通しているわけじゃない。でも、言い換えれば――?」
「一部の富裕層に好まれている――」
キールの問いに対するミリアの答えが完璧だった。
「――そうゆうこと。で、その『リーキの葉』を特産としているのが、このノースレンド王国というわけだ」
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