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第374話 守護精霊の力
しおりを挟む(やっぱり――な)
キールはあたりを付けていたのが間違いなかったと確信した。
(あの屋敷で間違いなさそうだ。魔法発動の大きな波が立った。けど、あの男、残念だけど救えなかったな――。もし助けられてれば、いろんな情報が手に入ったかもしれないけど、仕方がない――今日のところは一旦引き上げよう)
街の外れの屋敷にエルルートらしいものが住んでいるようだという情報は在った。が、確証はなかったため、張り込んでみたのだが、そこに1人の魔術師が現れ、部屋に侵入したあと、戦闘がおこり、その魔術師はどうやら『消滅させられた』ようだ。
すでに魔法感知に反応しないことから、そいつがもう生きていないことは明らかだ。
部屋の中で起きた戦闘――。
感じたのは侵入者の方の魔力で、「主」の方はわずかに感じたのみだ。しかもそれは「魔力」ではない。
――おそらく『守護精霊』だ。
ハルに憑いているアイツ、たしか「リーチ」とか言ったな、あれと同じような感覚だった。
ハル――イハルーラ・ラ・ローズは『翡翠』の弟子で、今はアステリッドと共に『翡翠』の指導を受けているエルルートの女の子(?)だ。彼女と一度手合わせをしたときに、キールは『守護精霊』と対峙している。
この『守護精霊』というのは、エルルート族すべてに宿る一つの「力」で、その存在や形は様々だという。
キールが見たものだと、ハルの「リーチ」のように人型のようなものもあれば、そもそも形を持たないオーラのようなもの、あとは、装備品のような形のものや、衣服やアクセサリのようなものまで、非常に多種多様な形と能力を持っていた。キールがそれらを見たのは、エルレアのジダテリア山での魔物との攻防の際の話だ。
相手の『守護精霊』の能力がわからないというのは厄介だ。
しかも、一瞬で一人の魔術師を『消滅させている』。あの男の亡骸がどうなったのかは確認のしようがないが、仮に魔術師が死んだ場合でも、亡骸にいくらか魔力は残るものだ。
(なのに、今回は微塵も感じない――。完全に消滅させられている)
キールは正直、鳥肌が立った。
この「敵」は、とにかく「ヤバい」。
これまでの相手は、結局のところ、キール自身の「素質」で対応できてきた節がある。まあ、最初の頃ミリアと戦った時は、まだまだ「素質」とは言えなかった程度だったけど、それ以降、ミリアの指導と訓練、それから、『氷結』から習った体術などを経て、自分もいっぱしの『魔術師』へと成長したという自負がある。
しかし、「この相手」は少し異質だ。
言わば、抜き身の『氷結』と同等ともいえる。
『氷結』ニデリック・ヴァン・ヴュルストとは一度、真剣勝負をしたことがある。が、あの時は、あの『泉』の側での話だ。魔力が極端に抑えられる結界地域での戦闘だったため、互いの命に危険が及ぶまでには至らなかった。
しかし、今回はそうはいかない。
下手すれば、「侵入者」の二の舞になってしまいかねない。
――取り敢えず、僕の「仕事」はその相手の居場所を突き止めること、だ。対応しろとまでは言われていない。いや、むしろ、対応できないとわかっててのことだろう。あとは『翡翠』の指示を待つことにしよう。
キールはそう決断した。
******
キールがその街はずれの屋敷でそんな事件に遭遇する数時間前の話だ。
魔術院を辞した一行は、ヘラルドカッツ公邸へと引き返してきていた。
執事のユルゲンが、使用人にお茶の用意をさせると言って辞したあと、4人は応接間のソファに腰かけて待つことにした。
「――それで? キールさんはどこに行ったの?」
と、クリストファーが切り出した。
「さすが、クリス。どうしてキールがここにいるとわかったのよ?」
と返すのはミリアだ。
「やっぱりね。ガイレン院長がメストリルから使者が来たって言った時にそんな感じがしたんだ。もしかしたらキールさん、かな? ってね」
と、クリストファーがふわりと笑った。
「私たちで残念でしたね、クリストファーさん。キールさんに会いたいですか?」
とアステリッドが差し挟む。
「そう、だね。いろいろな噂を聞いてはいるからね。『稀代』だの、『船』だの、『世界一周』だの――。ほんと、あの人はどこまで行くつもりなんだろうね」
と言いながら、クリストファーはミリアの方へと視線を投げた。
「わ、私に聞かないでよ? 私だって、キールが何をしようとしてるか朧気《おぼろげ》にしか聞いてないんだから――」
「ほら、聞いてるんだ。「朧気」でもいくらかは聞いてるってことでしょ?」
「え~!? ミリアさん、きいてるんですかぁ!? 私には何も言ってくれないのにぃ」
「リ、リディーとは話してる暇がなかったじゃない。ただそれだけのことよ」
「お、おほん。たのしく会話なされてるところお邪魔でしょうが、わたくしもここにいるのですよ? 置いてけぼりはさすがに気持ちがよくありませんわ」
と、フランソワがツンと上を向く。
「ははは、ごめんごめん。僕の勘だと、明日あたり来ると思うんだけど――ね」
「来るって、ここにですか? 教授」
「たぶん――ね。『勘』だけど――」
だが、クリストファーはこの時、なぜだかわからないがそういう『確信』があった。
(とうとう、明日、会える――か)
この3年で、自分はすこしでも「あの人」に追い付けているのだろうか?
さらに引き離されてるのではないだろうか?
そんな不安と期待に胸を躍らせている、心地よい高揚感があった。
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