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第388話 キール出航
しおりを挟むクルシュ暦371年11月10日――。
結局キール一味「学生部」は一時解散することに決定した。おそらくのところ、『魔法具』を揃えてしまったリューデス・アウストリアとキールたちが対峙するのを危険と見た『翡翠』が作戦を見直し、キールたちはそれに従ったという形だ。
ミリアとアステリッドはヘラルドカッツまではクリストファーたちに同行し、その後は、ミリアの『従者たち』に跨って、メストリルへ戻った。
一方、キールは、寄り道を余儀なくされる。
「よお、船長。こんな通達が来てるぜ?」
そう言って一枚のスクロールを渡したのは、副長のミューゼルだ。『通達』は、『翡翠』の諜報員からもたらされたものらしい。
『キールよ。『新造艦』が完成した。お前にはエランへ戻ってもらいたい。こちらの準備ができ次第、『英雄王』の公式訪問を決行する。帰りの道中、キュエリーゼ王国に立ち寄ってくれ、なんでも、神父の『ワイアット・アープ』という人物がお前と面識があるとかで、頼みごとをしたいと言うて来ておる。おまえ、とんでもない男とまた繋がりを持ったようじゃな。まあ、それはよい。こちらとしても、キュエリーゼ王国とは親密な関係を築きたいところじゃ。寄って、相談に乗ってやるが良い』
ワイアット――。このノースレンド王国の南に位置する国キュエリーゼ王国の第一王子様だ。本名はウィリアム・フォン・キュエリーズである。おそらく『翡翠』のところにもこの情報はすでにもたらされているのだろう。『とんでもない男』という表現と、キュエリーゼ王国との関係に言及しているところから読み取ることができる。
(ワイアットか――。あの『神父』、今度は何を企んでいるんだ?)
キールは一瞬眉を寄せた、が、こちらもこちらで聞きたいことができたのも事実だった。
実は、リューデス・アウストリアについて追加の情報を得るに至った。キールは「あの屋敷」に寄ってリューデスの在否を確認したのだが、屋敷にはまったく魔素反応が見当たらなかった。つまり、『もぬけの殻』となっていたのである。
そしてそれと同時に、一つの新情報が諜報員からもたらされていた。どうやら、あの国家魔術院院長の密輸に関する荷物が、キュエリーゼに運び込まれているようだ、というものだ。
(ったく、あの『神父』。なんだかわからないけど、タイミングが「良すぎる」んだよ。こういう事情をこちらがもっていると知って厄介事を背負わせようとして来てるんじゃないかと本気で疑いたくなる――)
しかしながら、それが「事実」なのかどうかは未だ測りかねている。相手も一国の王子だ。しかも、現在は父王が病に臥せっている為、政務に関して二人の王子が取り仕切っているのだ。事実上は「国王」と言っても差し支えない。
キュエリーゼ王国の国家魔術院はほとんど機能していないと言われているが、実際は全くのところわからない。とにかく、この魔術院、存在自体が「希薄」なのだ。わかっているのは所属している魔術師がたった5人しかいないということぐらいだ。そしてその5人のクラスは決して高いものではない。錬成「2」通常クラスが3人と錬成「2」上位クラスが2人だという。
(まったく、ちょっとわかりにくい奴なんだよな、あいつ。『火炎』と『氷結』を混ぜて二つに割って、『疾風』を少し足した、そんな感じなんだよな。それでいて、性質的には『氷結』寄りだから、僕にとっては一番苦手なタイプなんだよなぁ――)
「おい、船長、顔が変なことになってるぜ? そんなにおかしな通達だったか? キュエリーゼによって、話を聞けってそれだけだろう?」
通達を見て不気味な表情を見せているキールを見たミューゼルがあまりに不審に思い訊《たず》ねてくる。
「あ、ああ、『それだけ』なら大したことじゃないんだけどね――。たぶんそれだけじゃないから、めんどくさいんだよなぁ……」
「しかし、『船長』――あ、いや『ジルメーヌ』のお達しなら聞かないわけにもいかないだろう?」
「――だから、こんな顔になるんだよ」
「船長《キャプテン》! 出れるぜ!」
船員の一人がキールたちの方に向かって叫んだ。
どうやら出港準備が整ったらしい。
「よし、出航だ――。ミューゼル、行こうか」
「で? 行先は?」
「今の話聞いてただろう?」
「出航時に目的地を指示するのは『船長』の役割だからな――」
「キュエリーゼ……」
「ほら、聞こえねぇぞ? 船員たちに聞こえるようにもっと大声で!」
「くっ、お前わかっててやってるだろ――。くそ、分かったよ。――各員に伝える! 目的地はキュエリーゼ王国ローベ! 外海に出たら針路を南にとれ! 抜錨!」
「よお、キール。さっきより顔が変になってるぜ?」
ミューゼルが笑いをこらえて言う。
「うるさいよ、お前は――」
からからと碇を巻き上げる音が響き始めると、やがて船は緩やかに動き始めた。
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