387 / 407
第387話 納屋
しおりを挟む「なんですって!? 本気でおっしゃってるの!?」
こう声を荒らげたのはフランソワだった。
「ああ、『翡翠』は、ことは次の段階に入っているから、そちらで先回りをするのが得策だと判断した――つまり、今からではリューデスを止めることはできないってことだ」
と、キールがこれに返す。
フランソワが声を荒げたのは、キールが「作戦行動は中止して各自本国へ戻れ」という『翡翠』からの伝言を、フランソワとクリストファー、ミリア、アステリッドへ伝えたからだ。
「――先回り……ですか。具体的には何か仰っておられましたか、『翡翠』さまは――?」
クリストファーが静かに返した。
「いや、具体的には指示はなかった。けど、本国へ戻れってことはやることはそう多くないと、僕は思う」
とキールがクリストファーの問いに回答する。
事実その通りだ。
クリストファーからすれば本国――つまりヘラルドカッツ――に戻って出来ることと言えば、『研究』を進めることぐらいしかない。
フランソワができるとすれば、国王と国家魔術院とよく相談し、これからのことを熟考することだろう。また、「キール一味」となったからには、ヘラルドカッツの動向をつぶさに情報共有することも求められる。ユルゲンさんとよく相談して動いてほしいところだ。
ミリアはメストリル王国国内での調整と、もしかしたら、のちのちにはヘラルドカッツ王国とメストリル王国の協力体制構築の橋渡し役になるかもしれない。
アステリッドは来たる対決の日に備えて『翡翠』のもとで魔法の修業を続け研鑽に励むことになるだろう。
「――それで? あなたはやっぱり海、なのよね……?」
そう言ったミリアの表情がやはりやや寂しげに見えるのはキールの感傷か。
「そう、なるね。もうそろそろデリウス教授の『新造艦』が完成するらしい。僕は『英雄王』とともにエルレアへ行くことになるだろう」
『新造艦』は処女航海になるため、万が一に備えて、キールの『レオローラ号』が随伴航海することになったというのだ。
「そう――」
「まあ、ミリアにはミリアにしかできないことがあるだろうし――。あ、そう言えば、近々、エリザベス教授がまたバレリアへ潜るって聞いたよ? たぶんその護衛に就くことになるんじゃないかな――」
「ウォルデランとも一緒に、でしょうね。はあ、まあ、仕方がないわね。あなたがいないから私にこういう役回りが回ってくるのよ? この『貸し』は高くつくから覚悟してなさいよね」
「ははは、端数は割り引いてもらっていいですか?」
「キールさんなら、そんな『借り』すぐに返済して見せますよ!」
と、アステリッドが援護射撃をする。
たまに思うのだが、アステリッドの援護は「気持ち」が前に出すぎていて言ってる意味が良く分からないことがある。
今回であれば、何が『借り』で、どうやって『返済』するのかが良く分からない。
それでもまあ、キールの味方で居たいという気持ちだけは充分に伝わってくるのだが。
――いやいやいや、そもそも『貸し』ってなんだよ!? それは「僕」の役割じゃなくて、そもそも国家魔術院副院長でもある、ミリアの本分のはずだろう?
「あ、でも、私が許可する方法で返済してくださいね。例えばミリアさんとどこかへ二人で出かけるとかは許しません。その際は私が同行して二人のことをしっかりと監視しますから」
と、アステリッドが続ける。
らしいといえばらしい。こういうところの『計算』が速いから、今のブランド『MItHa』も順調なのだろう。
そう言えば、あいつにもしばらく会ってない気がする。ルドさんにもしばらく会ってない。聞いてる限りでは「喧嘩」はしょっちゅうやってるみたいだが、不思議といつも一緒にいることが多いと、アステリッドが言っていた。
そんなことを考えると、やはり、メストリルが恋しくなる。
本当はゆっくりとあの森の広場に寝転がって空を眺めて一日を過ごしたい。
お腹がすいたらみんなでわいわい言いながら、お弁当やサンドイッチやパイなんかをつまんで――。
――あれ? 僕っていつからこんなに寂しがり屋になったのだろう?
ふと、キールの頭に疑問がよぎる。
昔メストリルへやってきた頃は毎日一人だった。一人で大学へ行って一人で下宿宿に帰って、一人でご飯を食べて、本を読んで眠った。
だけど、その年の年末からはずっと誰かが傍にいた記憶が圧倒的に多い。気が付くと、キールの周りにはたくさんの人がいろいろな形で繋がっていた。
ああ、「あの時」がはじまりだったんだ――。
キールは大学からの帰り道の途中にある、あの納屋を思い出していた。
0
あなたにおすすめの小説
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
捨てられた貴族六男、ハズレギフト『家電量販店』で僻地を悠々開拓する。~魔改造し放題の家電を使って、廃れた土地で建国目指します~
荒井竜馬@書籍発売中
ファンタジー
ある日、主人公は前世の記憶を思いだし、自分が転生者であることに気がつく。転生先は、悪役貴族と名高いアストロメア家の六男だった。しかし、メビウスは前世でアニメやラノベに触れていたので、悪役転生した場合の身の振り方を知っていた。『悪役転生ものということは、死ぬ気で努力すれば最強になれるパターンだ!』そう考えて死ぬ気で努力をするが、チート級の力を身につけることができなかった。
それどころか、授かったギフトが『家電量販店』という理解されないギフトだったせいで、一族から追放されてしまい『死地』と呼ばれる場所に捨てられてしまう。
「……普通、十歳の子供をこんな場所に捨てるか?」
『死地』と呼ばれる何もない場所で、メビウスは『家電量販店』のスキルを使って生き延びることを決意する。
しかし、そこでメビウスは自分のギフトが『死地』で生きていくのに適していたことに気がつく。
家電を自在に魔改造して『家電量販店』で過ごしていくうちに、メビウスは周りから天才発明家として扱われ、やがて小国の長として建国を目指すことになるのだった。
メビウスは知るはずがなかった。いずれ、自分が『機械仕掛けの大魔導士』と呼ばれ存在になるなんて。
努力しても最強になれず、追放先に師範も元冒険者メイドもついてこず、領地どころかどの国も管理していない僻地に捨てられる……そんな踏んだり蹴ったりから始まる領地(国家)経営物語。
『ノベマ! 異世界ファンタジー:8位(2025/04/22)』
※別サイトにも掲載しています。
神に同情された転生者物語
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。
すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情され、異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。
悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。
勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる! ×ランクだと思ってたギフトは、オレだけ使える無敵の能力でした
赤白玉ゆずる
ファンタジー
【コミックス第2巻発売中です!】
逞しく成長したリューク、そしてジーナ、ユフィオ、キスティーが大活躍します!
皆様どうぞよろしくお願いいたします。
【書籍第3巻が発売されました!】
今回も改稿や修正を頑張りましたので、皆様どうぞよろしくお願いいたします。
イラストは蓮禾先生が担当してくださいました。アニスもレムも超カワで、表紙もカッコイイです!
素晴らしいイラストの数々が載っておりますので、是非見ていただけたら嬉しいです。
【2024年10月23日コミカライズ開始!】
『勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる!』のコミカライズが連載開始されました!
颯希先生が描いてくださるリュークやアニスたちが本当に素敵なので、是非ご覧になってくださいませ。
【ストーリー紹介】
幼い頃、孤児院から引き取られた主人公リュークは、養父となった侯爵から酷い扱いを受けていた。
そんなある日、リュークは『スマホ』という史上初の『Xランク』スキルを授かる。
養父は『Xランク』をただの『バツランク』だと馬鹿にし、リュークをきつくぶん殴ったうえ、親子の縁を切って家から追い出す。
だが本当は『Extraランク』という意味で、超絶ぶっちぎりの能力を持っていた。
『スマホ』の能力――それは鑑定、検索、マップ機能、動物の言葉が翻訳ができるほか、他人やモンスターの持つスキル・魔法などをコピーして取得が可能なうえ、写真に撮ったものを現物として出せたり、合成することで強力な魔導装備すら製作できる最凶のものだった。
貴族家から放り出されたリュークは、朱鷺色の髪をした天才美少女剣士アニスと出会う。
『剣姫』の二つ名を持つアニスは雲の上の存在だったが、『スマホ』の力でリュークは成り上がり、徐々にその関係は接近していく。
『スマホ』はリュークの成長とともにさらに進化し、最弱の男はいつしか世界最強の存在へ……。
どん底だった主人公が一発逆転する物語です。
※別小説『ぶっ壊れ錬金術師(チート・アルケミスト)はいつか本気を出してみたい 魔導と科学を極めたら異世界最強になったので、自由気ままに生きていきます』も書いてますので、そちらもどうぞよろしくお願いいたします。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる