お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。

永礼 経

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第394話 新たなる局面へ、一路南へと

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 ヘラルドカッツに戻ったクリストファーはまた研究の日々に戻っている。

 心配していた国家魔術院院長のレイモンド・ワーデル・ロジャッドは結果的には王国に仇名あだなすものではなかったと言えそうだ。
 国王カールス・フォン・ヘラルドカッツェからしばし、謹慎きんしんを申し渡され、今は休職をしている。
 これは、ある意味「けじめ」というものであり、レイモンド自身から申し出たことでもあった。
 さすがに魔法具を4つも手放してしまった落ち度は大きいと言える。それに、大事な部下も一人行方不明になっているのだ。
 何もおとがめなしという訳にはいかないだろう。

「お父様、今後レイモンド院長をまた復職なさるおつもりでいらして?」
とは秘密裏にフランソワが父王に尋ねたことだった。
 父王は、
「そのつもりだ。彼があればこそ、現段階においてメストリルから後れを取ることなく進められているのもまた事実。お前の『教授せんせい』には申し訳ないが、彼がここにいるからこそ現在の世界がまだ傾いていないともいえるのだ。その難事を進められたのもまたレイモンドの功である」
と言った。

 フランソワとしては内心微妙な気持であったが、確かに現在のこの国がメストリルに遅れを取らないどころか、見方によっては超えているのではないかともとれる電力技術を成し得たのはひとえに自身の夫であり、最愛の人、クリストファー・ダン・ヴェラーニがこの国に今存在しているからであり、その原初となったのは、まぎれもなく、レイモンド院長の決断と具申によるものと言える。

「そうですわね。メストリルにウォルデラン、シェーランネルの三大魔術師たちに対抗できる方は、現在我が国には彼しかおりませんもの――。お父様の判断にわたくしも賛成ですわ」
と、応じておいた。

 ノースレンド王国国家魔術院院長ヒューロ・ガイレンは、先日その任を解かれ、今は密輸に関する取り調べを受けるために牢に入れられていると聞く。

 これでまた、ノースレンドの国家魔術院の力も弱まってしまうだろう。
 ただ、幸いなことに、ノースレンド王国にはこのヘラルドカッツ国家魔術院とメストリル国家魔術院が後ろ盾となり、両魔術院から一名ずつ、緊急措置として魔術師が派遣されることになっていた。しばらくの間は、その二人が立て直しを図り、院長にふさわしい人物が選定されるまで後見にあたることとしている。

 この案を両国国家魔術院に具申したのは、メストリル国家魔術院副院長であるミリア・ハインツフェルトであった。
 レイモンド院長も謹慎前の最後の仕事として、この案を受け入れることに賛同し、国王カールスにもそう勧め、休職に入った。
 なお、ヘラルドカッツから派遣された魔術師と言うのは、あの男であり、また、メストリルから派遣された魔術師もまた、懐かしい名前となった。


 クルシュ歴371年11月下旬――。
 ノースレンド王国に二人の魔術師が到着する。

 一人は、ヘラルドカッツ国家魔術院から、ルスラン・レヴィン。
 もう一人は、メストリル国家魔術院から、ミヒャエル・グリューネワルト。

 二人とも、諜報部員として各国を飛び回っている手練れの魔術師である。
 ルスランは、クリストファーをさらった張本人であるし、ミヒャエルはキール・ヴァイスをずっと監視し続けていたものだ。その実績から、手腕を買われての抜擢である。
 これを機に、ヘラルドカッツ、メストリル両国の魔術院も少しばかり近づければよいのではという期待もあってのことだった。

 この頃、ミリアは多忙を極めていた。
 ノースレンド王国の不祥事から、各国エルレア大使館より、『リーキの葉』の輸出について再度厳命が下り、『翡翠ジルメーヌ』の指名により、各国王室に対し、エルレア大使館特命大使として通知して回るという役目を与えられ、世界を文字通り「飛び回っていた」のだ。

「ミリアよ。お前には『』があるでな。世界各国の王室を回り、駐北大陸ちゅうきたたいりくエルレア大使館長たる我の親書を持って通達して回れ。――ちょうどいい折じゃ、『騎竜魔導士きりゅうまどうし』ミリア・ハインツフェルトのお披露目もかねて、世界を見て回るがよい。のちのちキールの考えていることの役にも立とう」
と、『翡翠ジルメーヌ』からのお達しだった。
 つまりは、ジョドとべリングエルにまたがって、世界の空を飛び回り、この世界に魔物とは違う、また新たな種、「竜族」がいることを喧伝けんでんして回れという意味でもある。

 キールの考えていること――「海の国」を作ること――はまだまだ先の話になるだろうが、北の大陸全土を見て回る機会はそうそうない。確かにこれはいい機会となるだろう。
 当のキール自身はすでにエルレアに向かって発っているはずで、現在、この国に『英雄王』は留守である。

 メストリルは、自身の父であり、政務大臣のウェルダート・ハインツフェルトと、国家魔術院院長『氷結』ニデリック・ヴァン・ヴュルストが主体となり、他に、財務室長ケイン・ギュンダー伯爵らも力を併せて留守を守ることとなっている。


 そして、はるか南の洋上には、まだ新しく光輝いているひときわ大きな横帆船と、それに追随する縦帆船の二隻が並んで、一路、南を目指していた――。
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