お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。

永礼 経

文字の大きさ
395 / 407

第395話 それは歴史の1ページだった

しおりを挟む

「うひょ~! きもちいいぜ~! デリウス! よくやった!」

 甲板上ではしゃぐ「老人リヒャエル」が傍に控える「学者デリウス」に言った。

 この船、『サン・メストリーデ号』は、レント史上初の大型大陸間巡行船であり、その設計はデリウス・フォン・ゲイルハートが全てを手掛けた。

 木造帆船だが、要所要所に金属部品が用いられており、耐用年数が高いとともに、戦闘時耐久度も非常に高くなっている。
 3本の帆柱マストすべてに横帆よこほが張られている型はデリウスの理論に基づくものだ。

 エルルートから受け継いだ船でもある、キールの船「レオローラ号」は、2本マストで2本ともが縦帆という帆装である。

「おい! デリウス! この船の性能をあの小僧キールに見せつけてやろうぜ? 今日は天気もいいし風もそこそこある。少しぐらい離しても見えなくなることはないはずだしな」

「陛下、まだまだ先は長いのですよ? 初日からそんなにはしゃいでては最後までもちませんよ?」
と、デリウスが応じる。が、すぐに、
「――でもまあ、いいのではないでしょうか。最大船足を試すのも大事なことですから」 
と、にやりと笑った。

「よおし! ミューゼルに伝えろ! 最大船足だ!」

 「ミューゼル」とは、ミューゼルである。普段はキールの副長として「レオローラ号」に乗っているのだが、今回はこの「サン・メストリーデ号」に副長として乗船している。
 一応名目上の船長は『英雄王』リヒャエル・バーンズとなっているが、リヒャエル自身は操船の知識など持ち合わせていない為、いわゆる「船長」である。

 ミューゼルにその指示が伝わったのか、「総帆そうはん開け―!」という声が甲板上にも木霊こだまする。

 すると、折りたたんであった何枚かの帆がさばぁと音を立てて開き、ばふうと風をはらを描いた。
 瞬間、船体が前に大きく揺れ、甲板上でたたらを踏む者も数人みえたが、かまわず船は加速し始める。

「お、おお! 速い! 速いぞ!!」

 リヒャエルは並走しているキールの船が少しずつ後方へと下がってゆくのを見て無邪気にはしゃいでいる。

「今は順風ですからね、こちらの方が圧倒的に速くなりますよ!」
と、デリウスも上機嫌だった。



「速いな――。やっぱり2本と3本ってだけでも大きな差があるというのに、この順風で縦帆船のこの船では、あれに追い付くのは不可能だな」
と、キールは唇をかんだ。

「ですね――船長キャプテン。まあ、でも、もう少ししたら――」
「ああ、風向きが変わる――。そこで一気に差を詰めよう。やられてるだけではさすがに少し苛立ちが募るばかりだ」

 キールの言葉に応答したのは「現副長」のオネアムだ。
 オネアム・ヒュルク。彼もまた元は『翡翠ジルメーヌ』の船の乗組員であり、普段は、キールの船の操舵手そうだしゅを務めているが、今回は「副長」が不在ということで、「副長」を兼務してもらっている。

 キールは先程から総帆を開いて全速力で帆走はしりだした「サン・メストリーデ号」の船尾を見つめていた。
 順風になった時の横帆船の速度は、縦帆船に比べれば圧倒的に速くなる。簡単なことだ。前に進む力が大きくなるからだ。たくさんの風を受け、前に押し出される力が増幅すれば、自然、速度は上がる。

 だが、実は海の上は「平らではない」。「波」があるのだ。

 平らな場所を進むのであれば前進する力――推進力――の大きさイコール速度の大きさとなるのだが、海の上はそうはいかない。実はもう一つ必要な性能というものがある。

 走破性――。

 わかりやすく言えば、波を切る力、だ。海原に無限の凹凸を生み出す存在、「波」。これは天候や海流などによってさまざまに形状を変える。しかしながら、その大小はあれども、無くなることはない。
 
 つまり、船が前進する際には必ず、波にぶつかりながら進むことになるわけだ。

 よって、その波の衝撃をうまく流して抵抗を弱める必要が生じる。この抵抗が少なければ少ないほど、推進力が速度に変換されやすくなるというわけだ。


「デリウス教授、すごいな。走破性もかなりのものだ。あの大きさで、あれだけの推進力でありながら、走破性がそれほど落ちないというのは驚愕に値するよ。ただ、風が変われば、状況も変わる。それが海ってものだ。――オネアム! あっちの操船は横帆船に慣れないミューゼルだ! こっちはいつもの船だからね! 負けられないよ!?」 

「わかってるよ、船長! 次の風向き変動で一気に詰めてぶっちぎってやるさ!」


 クルシュ歴371年11月18日――。
 この日、世界で初めて、純レント製帆船と純エルルート性帆船の「レース」がこの南の海上で行われた。

 歴史の教科書にはそう記されることになる。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

捨てられた貴族六男、ハズレギフト『家電量販店』で僻地を悠々開拓する。~魔改造し放題の家電を使って、廃れた土地で建国目指します~

荒井竜馬@書籍発売中
ファンタジー
 ある日、主人公は前世の記憶を思いだし、自分が転生者であることに気がつく。転生先は、悪役貴族と名高いアストロメア家の六男だった。しかし、メビウスは前世でアニメやラノベに触れていたので、悪役転生した場合の身の振り方を知っていた。『悪役転生ものということは、死ぬ気で努力すれば最強になれるパターンだ!』そう考えて死ぬ気で努力をするが、チート級の力を身につけることができなかった。  それどころか、授かったギフトが『家電量販店』という理解されないギフトだったせいで、一族から追放されてしまい『死地』と呼ばれる場所に捨てられてしまう。 「……普通、十歳の子供をこんな場所に捨てるか?」 『死地』と呼ばれる何もない場所で、メビウスは『家電量販店』のスキルを使って生き延びることを決意する。  しかし、そこでメビウスは自分のギフトが『死地』で生きていくのに適していたことに気がつく。  家電を自在に魔改造して『家電量販店』で過ごしていくうちに、メビウスは周りから天才発明家として扱われ、やがて小国の長として建国を目指すことになるのだった。  メビウスは知るはずがなかった。いずれ、自分が『機械仕掛けの大魔導士』と呼ばれ存在になるなんて。  努力しても最強になれず、追放先に師範も元冒険者メイドもついてこず、領地どころかどの国も管理していない僻地に捨てられる……そんな踏んだり蹴ったりから始まる領地(国家)経営物語。 『ノベマ! 異世界ファンタジー:8位(2025/04/22)』 ※別サイトにも掲載しています。

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情され、異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる! ×ランクだと思ってたギフトは、オレだけ使える無敵の能力でした

赤白玉ゆずる
ファンタジー
【コミックス第2巻発売中です!】 逞しく成長したリューク、そしてジーナ、ユフィオ、キスティーが大活躍します! 皆様どうぞよろしくお願いいたします。 【書籍第3巻が発売されました!】 今回も改稿や修正を頑張りましたので、皆様どうぞよろしくお願いいたします。 イラストは蓮禾先生が担当してくださいました。アニスもレムも超カワで、表紙もカッコイイです! 素晴らしいイラストの数々が載っておりますので、是非見ていただけたら嬉しいです。 【2024年10月23日コミカライズ開始!】 『勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる!』のコミカライズが連載開始されました! 颯希先生が描いてくださるリュークやアニスたちが本当に素敵なので、是非ご覧になってくださいませ。 【ストーリー紹介】 幼い頃、孤児院から引き取られた主人公リュークは、養父となった侯爵から酷い扱いを受けていた。 そんなある日、リュークは『スマホ』という史上初の『Xランク』スキルを授かる。 養父は『Xランク』をただの『バツランク』だと馬鹿にし、リュークをきつくぶん殴ったうえ、親子の縁を切って家から追い出す。 だが本当は『Extraランク』という意味で、超絶ぶっちぎりの能力を持っていた。 『スマホ』の能力――それは鑑定、検索、マップ機能、動物の言葉が翻訳ができるほか、他人やモンスターの持つスキル・魔法などをコピーして取得が可能なうえ、写真に撮ったものを現物として出せたり、合成することで強力な魔導装備すら製作できる最凶のものだった。 貴族家から放り出されたリュークは、朱鷺色の髪をした天才美少女剣士アニスと出会う。 『剣姫』の二つ名を持つアニスは雲の上の存在だったが、『スマホ』の力でリュークは成り上がり、徐々にその関係は接近していく。 『スマホ』はリュークの成長とともにさらに進化し、最弱の男はいつしか世界最強の存在へ……。 どん底だった主人公が一発逆転する物語です。 ※別小説『ぶっ壊れ錬金術師(チート・アルケミスト)はいつか本気を出してみたい 魔導と科学を極めたら異世界最強になったので、自由気ままに生きていきます』も書いてますので、そちらもどうぞよろしくお願いいたします。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

処理中です...