お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。

永礼 経

文字の大きさ
412 / 437

第412話 フロストボーデンのレイバン国王※

しおりを挟む

 首謀者を失った修道僧たちは皆、即座に投降を選択した。
 それも、ある修道僧が声を上げたためだ。

「ヒュッケン様がやられたぁ! もう勝てない! 俺は降伏する!!」

 その一人の声が波紋の中心となり、瞬く間に周囲のものも諸手を上げて降伏の意を示し始めた。

 正気を取り戻した衛兵たちは「王命」に従って、修道僧たちを捕縛していった。


「おいおい、俺はこっち側じゃない、こいつらに潜り込んでいただけだ――」
一人の灰色ローブが言葉を発する。
「ハーランド様! 何とか言ってくださいよ!」

 声をかけられたハーランド院長が、その男に掛かっている衛兵たちに合図をすると、衛兵たちもようやく手を放す。

(あ、あの人は確か――)

 ミリアもその様子を見ていたのだが、その男の顔に見覚えがあった。あれは、「御者ぎょしゃ」だ。

 なるほど、あの一団に紛れ込んで、誘導していたのか。レイバン国王が令を発した時も、ヒュッケンが討死した時も「誰か」一番に叫んだものがいた。あれはあの「御者」、ケリー・グラントだったのか。

「ああ、ミリア様! どうぞこちらへ。――この度は本当にありがとうございました。陛下も正気を取り戻すことができましたし、ラーデンフォウルの者共も一網打尽にできました。すべて、ミリア様、いえ、『七彩光しちさいこう』様のおかげです」

 ハーランド院長がミリアをレイバン国王の前にいざなった。

「ハーランド、こちらの方は?」

 レイバン国王はそう言った。

 思わずミリアはハーランド院長の顔に視線を移す。
 ハーランド院長は静かに首を横に振った。おそらく、記憶が曖昧なところがあるのかもしれない。

「陛下、お初にお目に掛かります。わたくしはメストリル王国国家魔術院副院長ミリア・ハインツフェルトと申します。この度はフロストボーデン王国に対し、エルレア大使館長ジルメーヌ・アラ・モディアス様からの「申し入れ」を預かって参りました――」

 「親書」はすでに渡してある為、もはや手元にはない。おそらく、あのヒュッケン・ジンザが預かって破棄している可能性が高いだろうと、そう察したミリアは、ジルメーヌから『言葉』を預かってきたと、そう言ったのだ。

「そうか。ジルメーヌ殿――。久しぶりに聞く名だ。彼女はまだ健在なのだな」

 レイバン国王は、目を細めて懐かしがっている。

「実は、ミリア様。『翡翠ひすいの魔術師』殿は、陛下の憧れの人だったんですよ。陛下も若き頃は「冒険者」として活躍されておられました。いつかあの『英雄王』パーティに負けない自分だけのパーティを持つんだと息巻いておられました」

「よせ、ハーランド。私は結局冒険者としてはうだつが上がらなかったのだ。それで父の跡を継ぐ決意をした。なのに、こんなだ。恥ずかしくて『翡翠ひすい』殿を敬愛していたなどとは口にできぬ――」


「陛下――。『翡翠ジルメーヌ』さまは、常に前を向いて歩む人をとても愛されるお方です。『英雄王』もしかり。私の仲間もいつも『翡翠ジルメーヌ』さまに背を押されながら歩んでおります」
と、ミリアが応じる。

 レイバンは、そのミリアの言葉を噛みしめるように目を閉じ、しばらくしてゆっくりと目を開けると、
「――そうであったな。彼女はそうやって多くの冒険者たちの背を押しておられた。私もまた彼女に背を押されるよう前を向いて歩んでいくとしよう」
と、ミリアの言葉に応えた。

 ミリアは、本来の役目である、大使館長使節としてジルメーヌからの『言葉』を伝え、フロストボーデン王国をあとにした。


――――――
 

「ミリアめ、好き放題やっておるわ。あやつもキールによく似てきたのやもしれぬな?」

 そう言葉を発したのは、大使館長ジルメーヌ・アラ・モディアスだ。

「――いえ、そうでもないでしょう。あの子は幼いころから正義感に溢れ、向こう見ずなところがありましたから」
と、返したのはウェルダート・ハインツフェルトだ。ミリアの父である彼にしてみれば、他の男の影響を受けてなどとは露にも思いたくないところだろうか。

「ウェルダート様の仰る通りです。彼女は本来あのような気質の子でした。年齢を重ねるごとに落ち着いていきましたが、高等魔術院時代にはすこし気負っている部分がありました。いい意味で一皮むけたというところでしょう」
と、受けたのはミリアの師でもある『氷結』ニデリック・ヴァン・ヴュルストだ。

 そう言えばこの二人は昔からだいの「ミリアし」であったなと、したり顔をしながら聞いていたのは秘書官のネインリヒ・ヒューランだ。 

 4人は今、『英雄王』の執務室に集まっている。
 ただ、当の家主である『英雄王』は現在、南の大海の上に浮かぶ超大型船の上にいる。
 
「ネインリヒくん、今の顔はどういう心境を表したものかな?」

 こういう時に一番よくネインリヒの表情を見ているのはニデリックだ。今回もバレないようにほんの一瞬に見せた表情の変化を見過ごさない。

「いえ、なんでもありませんよ。私もミリアを幼いころから見ておりますので――」
と、危なげなくやり過ごす。

 こういう時ニデリックは、さらに詰め寄るなどということはしない。

「――それにしても、あの二人、おそいのう。ネインリヒ、時間は間違えずに伝えたのであろうな?」
と、逆に詰め寄ったのはジルメーヌの方だ。

「え、ええ、もちろんです。ただ、何か都合があったのか、二人して、まごまごとしておりましたが――」

 ネインリヒがそう答えたその時、表の衛兵から声がかかる。

『アステリッド・コルティーレ様、イハルーラ・ラ・ローズ様、ご到着になられました』

「入れ」
と、現在のこの部屋の主であるウェルダートが許可を下す。

「「お、おそくなりまして、すいません!!」」

 そう言って入ってきた二人が速攻で最敬礼をする。
 顔を上げた二人の顔を見て、3人の男が何やらな表情をする。

「あ、あの――?」
と、アステリッドが3人の表情を見て訝しむ。

「二人とも、そこの鏡をのぞいてみるが良い。この者たちがほうけている理由がわかるであろう」
と、ジルメーヌは嘆息交じりにいいはなつ。

 二人は慌てて、壁面の姿見に顔を映してみた。

 二人の口元についていたのは、白いクリームのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。 4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。 そんな彼はある日、追放される。 「よっし。やっと追放だ。」 自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。 - この話はフィクションです。 - カクヨム様でも連載しています。

魔法使いじゃなくて魔弓使いです

カタナヅキ
ファンタジー
※派手な攻撃魔法で敵を倒すより、矢に魔力を付与して戦う方が燃費が良いです 魔物に両親を殺された少年は森に暮らすエルフに拾われ、彼女に弟子入りして弓の技術を教わった。それから時が経過して少年は付与魔法と呼ばれる古代魔術を覚えると、弓の技術と組み合わせて「魔弓術」という戦術を編み出す。それを知ったエルフは少年に出て行くように伝える。 「お前はもう一人で生きていける。森から出て旅に出ろ」 「ええっ!?」 いきなり森から追い出された少年は当てもない旅に出ることになり、彼は師から教わった弓の技術と自分で覚えた魔法の力を頼りに生きていく。そして彼は外の世界に出て普通の人間の魔法使いの殆どは攻撃魔法で敵を殲滅するのが主流だと知る。 「攻撃魔法は派手で格好いいとは思うけど……無駄に魔力を使いすぎてる気がするな」 攻撃魔法は凄まじい威力を誇る反面に術者に大きな負担を与えるため、それを知ったレノは攻撃魔法よりも矢に魔力を付与して攻撃を行う方が燃費も良くて効率的に倒せる気がした――

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

異世界帰還者の気苦労無双録~チートスキルまで手に入れたのに幼馴染のお世話でダンジョン攻略が捗らない~

虎柄トラ
ファンタジー
 下校帰りに不慮の事故に遭い命を落とした桜川凪は、女神から開口一番に異世界転生しないかと勧誘を受ける。  意味が分からず凪が聞き返すと、女神は涙ながらに異世界の現状について語り出す。  女神が管理する世界ではいま魔族と人類とで戦争をしているが、このままだと人類が負けて世界は滅亡してしまう。  敗色濃厚なその理由は、魔族側には魔王がいるのに対して、人類側には勇者がいないからだという。  剣と魔法が存在するファンタジー世界は大好物だが、そんな物騒な世界で勇者になんてなりたくない凪は断るが、女神は聞き入れようとしない。  一歩も引かない女神に対して凪は、「魔王を倒せたら、俺を元の身体で元いた世界に帰還転生させろ」と交換条件を提示する。  快諾した女神と契約を交わし転生した凪は、見事に魔王を打ち倒して元の世界に帰還するが――。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

処理中です...