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第414話 『疾風』についてのある噂
しおりを挟むクリストファーは、カインズベルクへ戻ってから、多忙を極めた。
先日のお披露目会の折、大陸各国から『通信装置』設置の依頼が殺到している。すべての国へ出向いて製造していてはどれだけ時間が掛かるかわからない。
そこで、あらかじめ、『通信機』の部品を製造しておき、それを各国へ輸出する形を取ることにしていた。あとは、組立説明書に従って組み立ててもらえばいいだけになっている。
と書けば、あまり大したものでもないように聞こえるのだが、その部品のほとんどが金属であり、木製の部分の比率がかなり少ない。その分、重量がかさんで、運搬がかなりきついということが判ってきた。
もちろん、お披露目会のアンバサダーとして協力してもらったノースレンド王国へ設置する際も、その方法を取って予行演習を兼ねていたのだが、ノースレンドはいわば隣国である為、距離もそれほど遠くない。それでも結構苦労したと聞いている。
これが遠く離れた国ともなると、それに対する経費も相応に上がってくるというわけだ。
「かまわぬ。クリストファー教授。そのようなことは気にせずともよい。教授は出来る限り早く世界中へ『通信装置』の設置とアンテナの建造を広めることに集中してくれればよい。資金のことなら心配には及ばぬ」
と、カールス王は請け合ってくれた。
とにかく、大陸中へ――。
これが合言葉となり、各地でアンテナの建造も始まった。資金繰りの難しい国家に対しては、融資を行い、低利率で長期返済可能という形になるよう調整し、金属など材料物資の調達分については各国から提供させるのではなく、積極的に「買い取り」を行うことで対応する。もちろん「買取価格」は市場値のままで、だ。こうすることで、若干でも「経費」が差し引きで下がるというわけだ。
今回のこのプロジェクトに対してヘラルドカッツが支出した資金は相当な金額であったが、全て、通信技術が普及すれば、返ってくるものだろうと踏んでいる。ヘラルドカッツが大陸経済の中心である限り、物流の起点はすべてこのヘラルドカッツになるのだ。
アンテナおよび通信装置の使用法。
おそらく第一には、国家からの公式情報の公開であろうか。例えば、皇子皇女の誕生や、王位の継承、政府人事の異動、任官報告などだ。
とにかく最初のうちは、「公開しても問題ない、むしろ、公開しておくほうがよい情報」がやり取りされ、そこから、公式訪問など、知られても問題ない調整内容のやりとりがはじまり、そしてその後ようやく、ヘラルドカッツが目論んでいる『本当の使い方』が始まることになるだろう。
『本当の使い方』――。それは、「売買の契約」の締結。いわゆる、「公開買い付け」だ。
ただし、通信装置の一般普及まではまだまだ時間が掛かる。その理由は様々で、例えば装置が大きすぎるということもあるが、何よりも「高価」であることが大きい。現在の通信装置は高くて重く大きいため、一般人民が利用するにはまだまだ敷居が高い。
事実、今回のお披露目会にもお各国関係者は招待しているが、各国の経済界の関係者には案内を控えていた。
各国の財政担当大臣はこれから数年間にわたり忙しくて目が回るということになるだろう。この売買契約はいわゆる国家事業ということになる。各国家が人民から買い上げ、ひとまとめにして、他国家と売買する。その後、国家が人民に向けて卸すという流れだ。
現在の通信装置は何度も言うが「シングルバンド」だ。つまり、その電波上で話す内容はすべて、周囲の耳目にさらされることになる。つまり、取引価格が公開されるわけだ。そうすると一つ問題が出てくる。
同一品目の「価格競争」だ。
ある国A国が仮に「金属鉄」をグラムいくらで買い取ってほしいと通信装置で話す。それを聞きつけた他国家B国が、「私のところからならいくらで買えますよ?」と、さらに低い値段を提示する。
これが繰り返されれば、市場価格が下落していく可能性の方が高い――。
この問題が出てくるあたりまでには「マルチバンド」技術を開発したいと、クリストファーは計画している。
「何かの拍子に、どこかの王子と王女が「密会」の日程を大陸中に公開しながら決めるという事件がおこってからではおそいからね――。いまはまだ、各国の王城に一つずつ置いて、この通信技術に慣れてもらうことがさきだ」
と、クリストファーは傍らで出張の準備を手伝っているフランソワに説明していた。
明日からクリストファーはシェーランネルへ一時出張だ。
クリストファーは出来る限り簡潔に組み立てできるように設計したつもりだ。それでも、いくつかの国家から、出張設定の依頼も受けている。その一つがシェーランネルだった。
「シェーランネルの『疾風』様にはまだ出会ったことがないんだけど、出会えるかな?」
と、クリストファーが興味本位でぽつりと漏らした。
「教授《せんせい》、リシャールさまと会ってどうするおつもりですか? まさか――? わ、わたくし、そういう事には口出しするつもりはございません……。貴族界においても妾や愛人の類いを持つ殿方も結構居ることは承知しております……。ですが、リシャールさまだけは、おやめになられるほうがよいと思います……」
と、フランソワがその言葉の真意を問う。
「え? 妾? 愛人? ちょっと、フランソワ、なんのことを言ってるんだよ? 僕はそんなことは考えてないよ? 『疾風』様については、ミリアやキールさんから話だけは聞いてるんだけどまだ出会ったことがないから、それで、すこし楽しみだなぁって――」
「え? ええ!? そういう事でしたの? 私ったら、どうしてそんな早とちりを――。い、今のは忘れてください!!」
「忘れろってそれは難しいだろうけど。ところでどうしてリシャール様だけはダメなんだい?」
「え? あ、いえ、その……もう、聞かないでください!!」
フランソワはこの時、リシャールについてのある噂話を思わず思い出してしまったのだ。それで、最近ようやく夫婦らしくなってきた教授と自分の「男女の交わり」に水を差されるのではないかと、おもわず警戒してしまったのだ。
リシャールについてのその『噂』――『床上手』――については、決して口には出せない。
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