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第418話 共通の敵※
しおりを挟むクルシュ暦371年11月29日――。
とうとう、エルレア統一王朝に人間が訪れた。
訪れた人間は4人。
『暴風』リヒャエル・バーンズ、ティット・ディバイア、キューエル・ファイン、そして、『稀代』キール・ヴァイス。
「エルレア統一王朝議会議長、エリュクルク・ジル・ウェイブリンと申します。リヒャエル・バーンズ殿、これまでに2回も魔族侵攻の危機をお救いくださいまして誠にありがとうございました。こうして晴れて、公式にお出会い出来ること、エルレアとレントの共栄への第一歩となることでしょう」
議長と名乗ったその男エルルートがそう言った。
「議長」といってもやはりエルルート族、見た目では年齢はわからない。
人間で言えば、30代前半ぐらいにしか見えないのだが、ジルメーヌが20代前半ぐらいにしか見えないのだから、この「議長」、かなりの高齢と言えるかもしれない。
「リヒャエル・バーンズだ。俺はただの一介の冒険者に過ぎん。今回は人間の代表というわけじゃない。人間の世界には十数か国の国があり、それぞれに王がいる。これらを統一し代表を決めることはおそらく数十年単位では出来ないだろう。だから、この訪問は、お前たちエルルート族の土地に人間が到達できるということを証明しただけに過ぎん」
と、前置きをしておいて、さらに続ける。
「しかし、この事実は、今後の二つの種族間の交流にとって、決して無意味なものではないだろう――」
俺ら人間とエルルート族は生き方も文化も、そして寿命さえも違う。だが、互いに争いを好まず共栄を望むというのが基本的な両種族の考え方だ。
しかし、先だって行われた、エルルート族艦船による海上一斉封鎖によって、人間とエルルートの間に圧倒的な技術の差があることを見せつけられた。人間の多くはこれに委縮し、お前たちの要求を受け入れる羽目になった。
まあ、それはそれでいい。そもそも「翡翠」と「俺」が考えていたシナリオだからな。
だが、ここからは違う。俺らの方からもここへ来ることができるのだからな。この先いろいろな種族間問題が起きるだろう。俺は互いの国家間戦争を望んではいない。そんなことになれば、人類は破滅への門をくぐることになるからだ。今後は、互いによく交流を行い、話し合いを続けていければいいと、俺は願っている――。
と、『暴風』は返した。
これに対し、エリュクルク議長も応じる。
「リヒャエル・バーンズよ――」
そなたが共栄の心を持つものであることはこれまでの行動から明らかです。
われらエルルートとて、まだまだ人類としては「未熟」な存在です。エルルートはその長い歴史の中で、数百年という寿命と「統一王朝」という政治体制を獲得するに至りました。これにより、エルルートの世界から戦争が消滅したのです。
ですが、未だに魔族の根源を発見するには至っておりません。我らエルルートにとっておそらく今一番の脅威はこの魔族による浸食でしょう。
先のジダテリア山のような、守護精霊の力が制限される場所に対する魔族の侵攻に対し、我らエルルートのみで対応するには消耗が大きすぎるのです。
今後もまた、こちらから「人間」の助力を求めることがあるでしょう――。
そう、返したのだった。
会見はそんな挨拶のみですんなりと終った。その後は会食の場が設けられ、エルルートのもてなしを受けた。
料理は果物や野菜が主流のもので、肉類はほとんどなかった。キールが傍を通った給仕の人にそれについて訊ねると、その給仕のエルルートは、
「肉類の比率はそれほど高くなくていいのです。むしろ、出来る限り少ないに越したことはありません。主として穀物、野菜、果物から栄養を取り、肉類からは必要最小限の栄養素を得るようエルルート族の食事は計算されています」
と答えた。
(なるほど――)
と、キールは納得する。それが正解なのかどうかはキールにはわからない。
だが、これまでの街々や街道で出会ったエルルート族はみな若々しくスマートな体型をしている。いわゆる「肥満」の類いのものを見かけなかった。長寿のものに「肥満」体型のものがいないという事実だけから見れば、人間のように多くのものが「肥満」体型になる食生活はやはり寿命と無関係ではないと思えてくる。
(でも、『翡翠』さんは結構、肉、食べてたような気がする――)
ハルにしてもそうだ。 二人とも食生活に関しては僕たちと同じものを普段から食べている。
今度帰ったら、そのことについて聞いてみよう、とキールは思った。おそらくのところ、大した理由はないのかもしれない。単純に「好きだから」と答えられる気がする。
そうしてその日は統一王朝のある『センターコート』の街区に用意された宿泊施設で休むことになった。
エルルート側としてもいつかこのような日が訪れることに対ししっかりと準備を進めていたということが窺える。その宿泊施設は、レント風の様式の施設でレントからの来賓がほっと心を和ませるには充分な意匠が凝らしてあった。
なんと、大浴場や個人風呂まで完備している徹底ぶりだ。
「こりゃあ、翡翠の仕業だろうな――」
と、英雄王が言った。
「でも、大したものです。これほどの再現性を持たせるというのはなかなかに難しいものですよ?」
と、キューエル。
「俺はもっと肉が食いたかったがな。この旅館なら分厚いステーキとか置いてねぇかな?」
とはティットだ。
4人は、大浴場の湯船に並んで浸かりながら話している。大浴場の造りはまさしく「レント様式」。ウォルデランにあるあの大浴場とよく似ている。
「――でも、エルルート族が本気でレントを受け入れてくれるという気持ちがあらわれています。彼らエルルートの本質は僕らと同じ「平和」なんだろうとそう思うに至りました」
と、キールが感想を漏らす。
キールは今回のエルレア統一王朝の対応から、真摯にレントという異種族を受け入れ、ともにこの世界をより良き未来へとつなげていこうというメッセージを感じ取っていた。
「――ああ、そうだな。それに俺たち2種族の本当の敵が何なのかもはっきりしている。魔族どもだ。あいつらがいったいどうしてこの世界に現れるのか、目的は何なのか、おそらくそれこそがエルルートと人間が追い求めるべき一番の問題なんだろう。エルルートはその必要性を俺たち人間より強く感じているということだ」
『共通の敵』魔族――。
それをこの世にさらに召喚しようと画策するものが「消えた」ままだ。
リューデス・アウストリア。奴はいったい何を企んでいるのか。
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