お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。

永礼 経

文字の大きさ
426 / 437

第426話 ハルの休日

しおりを挟む

 ハルはくすっと思い出し笑いをしていた。

『ハル、きみわるい、何、オカシイ……?』

 ハルの傍らに上半身は人型のような形、下半身は蛇か雲かのように伸びている半透明の存在が現れて問いかけてくる。

「あ、ああ、リーチか。いやね、キールってときどき変なこと言うんだよね――」
 
 今、ハルは大使館の自室で朝の支度をしているところだった。


 クルシュ暦371年12月中旬――。

 先日、メストリルへ戻ったばかりのイハルーラだったが、今日はもうメストリルを離れることになっている。
 メストリルは「北の大陸」の中でも南方に位置しているため、比較的温暖な気候の地域であるが、さすがにこの季節になるとかなり冷え込んでくる。
 ハルは相応の服装で、支度を整えると、姿見の前から離れようとした。

『それで? 変なことって何だよ?』
 
 リーチがまだ返答を貰ってないとばかりに詰め寄る。この子、たまにこういうどうでもいいことに突っ込みたがる傾向があるんだよね。
 ハルは今から出かけようとしているところに付きまとわれたものだから、ややぶっきらぼうに、
「魔法で生成した水が飲めないと思ってたんだよ」
とだけ答えた。

『ナニ、ヘンなコト、ドウシタ――』
 
 なおもリーチが食いついてくる。

「さあね。レントの人たちはエルルートよりやや自然から離れている傾向があるんじゃない? 水にも飲めるものとそうでないものがあるんだろう? ――もういいだろ? ボクにだってよくわからないことってあるんだから!」

 ハルは付きまとうリーチにそう言い放ち、部屋を出た。

 今日はバレリア遺跡へ出発する日だ。
 通常なら、こんな寒い時期に探索に出るのはあまり気が進まないのだが、今回は目的がはっきりしていてそれほど長期の探索にはならないという計画だった。
 それに、向かうのは「深層」ではなく、『円盤の部屋』だ。

 バレリア遺跡第5層にある『円盤の部屋』は、現在はバレリア遺跡探索の中枢拠点となっている。
 エリザベス教授が自発式電灯を開発してから、この『円盤の部屋』を拠点として構築し、そこまでの道すがらは全て電灯で明るく照らされているため、魔物が出現することはほとんどといっていいほど無かった。たまに、『奈落』という縦穴をつたって上がってくるものがいるが、それも小型のブラックスライムほどで大した脅威にはならない。
 エリザベスでもすでに片手で叩き落せる、その程度の小さく弱小な魔物だ。

 いつもならハリーズさんや、クリュシュナさんなどの前衛職の人が護衛についてくるのだが、今回は二人はこないらしく、シルヴィオさんとウォルデラン国家魔術院諜報部の方が数名来てくれることになっているらしい。
 おそらくのところ、それでも充分に多いぐらいだろう。それほど『円盤の部屋』までの道中は平穏が保たれている。


 キールはキールでまたふらりと海へ出て行った。なんでも「約束」があるということだ。
 ハルはその約束の相手が「女」ではないかと訝しみ、問いただすと、キールは、「違う違う、王子様だよ」と、そう言って面倒そうな顔をした。

 キールがメストリーデに留まっていたのはわずか4日ほどだった。でも、久しぶりに、食事に行ったり、お買い物に出たり、ああ、それから、あの森の広場にもピクニックに行ったりできたから、とても楽しく過ごせた。

 特にピクニック。
 二人きりだったらもっと楽しかったかもしれないと思ってしまうところもあったけど、リディ姐ちゃんやミリア、あと、なぜかわからないけどあの「ジルベルトおっさん」も付いてきたし、もちろんエリザベス教授やミューランさん、ルドさんもいた。
 リディ姐ちゃんが焼いてきた「マフイン」というお菓子や、ミリアが作ってきた「サンドイッチ」、ミューランさんと教授はメストリーデの料理屋で注文したオードブルを、「ジルベルトおっさん」はジェノワーズ商会が扱っている「ぶどう酒ワイン」を、ルドさんは「高級チキンロースト」を、皆思い思いのものを持ち寄って、わいわいと楽しんだ。

 寒くないのか、だって?
 大丈夫。ボクたちは「魔術師」だよ?

 そこはみんなで少しずつ魔法を使えばまったく問題ない。

 みんなで作り上げた、「グランピングコテージ(リディ姐がそう言っていた)」とかいうテントのようなものは上出来だった。魔法「岩石生成」でうまく形作った「暖炉」もうまく機能していたから、コテージの中は快適だった。
 コテージの壁は、「魔法の障壁」だから、屋外にいるように景色を満喫できるうえ、日の光も充分に浴びることができた。

 昼前からゆっくりと過ごしたけど、一つ残念なことと言えば、この時期だけに日が短いことだろうか。夕方にはさすがに日が落ちてきて、真っ暗になるからね。
 それでも、魔法で明かりを作らず、暖炉の炎の光でしばらくゆっくりしたあと、

「――また、みんなで「はる」にでも……」

 キールがそう言ったのが、「」の合図になった。
  

 あ、そうそう、「水」の話。
 
 もちろんミリアは知っていた。
 さすがにそこは魔術院副院長だ。キールやリディ姐のその時の反応と驚いて口をあんぐりしている顔のことを話したら、

「ふたりとも、馬鹿なの?」

と、冷たく言い放った。でも、ボクには見えたんだよね。ミリアが口元を隠して笑っているのが。
 なんだろうな。ああいう仕草をしているミリアって本当にんだよね。
 周りで聞いていた皆も爆笑してたけど、「ジルベルトおっさん」が、

「おいおい、旦那! マジかよ? 笑えねぇぜ!?」
とか言いながら馬鹿笑いしてたのはちょっとウザかった。笑ってるじゃん。


 そんな「休暇」もあっという間に過ぎ去って、みんなまたそれぞれの「仕事」に戻っていった。

 また「」に――。

 ボクはやっぱり、「ハル」という響きが大好きなんだなって改めて思った、本当にいい休暇だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

異世界帰還者の気苦労無双録~チートスキルまで手に入れたのに幼馴染のお世話でダンジョン攻略が捗らない~

虎柄トラ
ファンタジー
 下校帰りに不慮の事故に遭い命を落とした桜川凪は、女神から開口一番に異世界転生しないかと勧誘を受ける。  意味が分からず凪が聞き返すと、女神は涙ながらに異世界の現状について語り出す。  女神が管理する世界ではいま魔族と人類とで戦争をしているが、このままだと人類が負けて世界は滅亡してしまう。  敗色濃厚なその理由は、魔族側には魔王がいるのに対して、人類側には勇者がいないからだという。  剣と魔法が存在するファンタジー世界は大好物だが、そんな物騒な世界で勇者になんてなりたくない凪は断るが、女神は聞き入れようとしない。  一歩も引かない女神に対して凪は、「魔王を倒せたら、俺を元の身体で元いた世界に帰還転生させろ」と交換条件を提示する。  快諾した女神と契約を交わし転生した凪は、見事に魔王を打ち倒して元の世界に帰還するが――。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

万分の一の確率でパートナーが見つかるって、そんな事あるのか?

Gai
ファンタジー
鉄柱が頭にぶつかって死んでしまった少年は神様からもう異世界へ転生させて貰う。 貴族の四男として生まれ変わった少年、ライルは属性魔法の適性が全くなかった。 貴族として生まれた子にとっては珍しいケースであり、ラガスは周りから憐みの目で見られる事が多かった。 ただ、ライルには属性魔法なんて比べものにならない魔法を持っていた。 「はぁーー・・・・・・属性魔法を持っている、それってそんなに凄い事なのか?」 基本気だるげなライルは基本目立ちたくはないが、売られた値段は良い値で買う男。 さてさて、プライドをへし折られる犠牲者はどれだけ出るのか・・・・・・ タイトルに書いてあるパートナーは序盤にはあまり出てきません。

処理中です...