45 / 437
第45話 ラアナの神童
しおりを挟むその日以降、クリストファーの姿をたびたび見かけるようになった。
おかしなものだ。
新学期が始まってだいぶんと経つというのに、これまであの子のことを知らなかったなんて。
知らない人をたびたび見かけていたとしても、人と言うのはその人を認識しない限り見たことのある人とは思わない。
クリストファーはその容姿から、どこにいても異彩を放っていた。
同級生とおしゃべりしている姿や、校内を歩いている姿、書庫で本を物色している姿、女生徒と何気ない会話や挨拶を交わしている姿など、いつでも彼だけが飛び抜けて目立っている。
あれだけの容姿で優しさにあふれる青年なら、男女問わず人に囲まれるのも無理はない。
「――え? クリストファー・ダン・ヴェラーニ?」
「ええ――」
「ミリア、彼のこと知らなかったの?」
去年から同じゼミに所属する、カチュア・ヘルメナートはミリアにとって、唯一「魔術院の天才」を忘れさせる気の置けない親友だった。
そのカチュアが今、ミリアの唐突な問いに驚いている。
「あの子は入学してきたときから、上級生の間でもかなりの評判だったから、当然あなたも知っていると思っていたけど――。ああ、そう言えばあなたには、すでに「意中のひと」がいたんだったわね。そりゃ、眼中にないっても仕方ないかぁ」
「な! なにをいってるのよ、カチュア。キ、キールとはそういうんじゃなくてただの研究仲間よ、そう、同志よ」
「同志ねぇ……。まあいいけど~」
少し意地悪い笑みを返したカチュアがさらに続ける。
「クリストファーのことね。彼は、メストリルの南方地域ラアナ領出身の地元商家の息子だって聞いてるわ。幼いころから『ラアナの神童』とか呼ばれてて、かなりの秀才らしいわよ。まあ、といっても、王立大学はそもそも競争率が高くないから、入学自体はそれほど難しくないからね。ここに入ったから秀才っていうんなら、私なんか大天才と呼ばれてもおかしくないわよね」
「ははは、それはないわね」
「はん、失礼な子ね。はっきり言うかねぇ?」
「で、その神童はどんな子なのよ?」
ミリアは先を促す。
「はいはい。専攻は考古歴史学らしいわ。どうも古代文献とか古代文字とか? そんなものを研究してるって聞いてる。性格は温厚で、気配りも効く。貴族家のお嬢様方からは絶賛熱い視線を送られているって感じね。まあ、あの容姿で、頭がよくって、気立てもいいって、これで家名が由緒正しければ完璧なお婿候補だもんね」
「そう――、なのね……」
「残念ながら、家名は平民なんで、お婿候補には入らないだろうけど、それでも彼をそばに置いておきたいって貴族令嬢はかなりの数いると思うわ」
カチュアの話からは彼の性格は思っていた通りの様だった。
考古歴史学――、古代文字――。
彼が研究しているものと、この間の「バレリア文字」の書物、その関連性はかなり深い。
例えば私に近づくだけが目的であの書物を適当に選んでカマをかけてきたというような類ではなさそうだと推測できる。
少なくとも、その書物に一定の知識を持っており、私がそれについて興味を持っていることを知って、声をかけてきたのだ。
例えば、カチュアに頼んで3人で話をするという方法も無くはないが、その場合、今ミリアの解読している『魔術錬成術式総覧』のことも話さなくてはならない。キールと魔法の訓練について共にしていることは話してあるが、書物についてはキールと二人だけの秘匿事項だ――。
(やはり、二人で話をするしかない――)
ところで彼が魔術師だという情報は魔術院の方は認知しているのだろうか。もし認知しているとすれば何らかのアプローチも検討されているはずだ。
(ネインリヒさんに聞くしかないか――)
とにかく彼が確実に信用できる人物であるとはっきりしないうちは、秘密を漏らすことはできないのだ。
放課後、ミリアはいつもの王立書庫へ向かわずに、国家魔術院へ向かった。今日はたしかニデリック院長はお休みの日だ。院長がお休みの日のネインリヒ秘書長はだいたいいつも各施設訪問を行っている。どこかで出会えれば、人に聞かれる可能性も低くなる。
魔術院で尋ねたところ、今先ほど王国兵団詰所へ向かったと聞いた。今から走れば到着する前に追い付けるはずだ。
ミリアはすぐに後を追った。
魔術院の扉を抜け、王城の通路を走る。
数十秒後、とおくに見慣れた背中が見えた。ネインリヒ秘書官に間違いない。
ミリアはその背中へ向かって声をかけた。
7
あなたにおすすめの小説
魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜
幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。
4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。
そんな彼はある日、追放される。
「よっし。やっと追放だ。」
自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。
- この話はフィクションです。
- カクヨム様でも連載しています。
称号は神を土下座させた男。
春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」
「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」
「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」
これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。
主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。
※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。
※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。
※無断転載は厳に禁じます
異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。
そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。
【カクヨムにも投稿してます】
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
異世界帰還者の気苦労無双録~チートスキルまで手に入れたのに幼馴染のお世話でダンジョン攻略が捗らない~
虎柄トラ
ファンタジー
下校帰りに不慮の事故に遭い命を落とした桜川凪は、女神から開口一番に異世界転生しないかと勧誘を受ける。
意味が分からず凪が聞き返すと、女神は涙ながらに異世界の現状について語り出す。
女神が管理する世界ではいま魔族と人類とで戦争をしているが、このままだと人類が負けて世界は滅亡してしまう。
敗色濃厚なその理由は、魔族側には魔王がいるのに対して、人類側には勇者がいないからだという。
剣と魔法が存在するファンタジー世界は大好物だが、そんな物騒な世界で勇者になんてなりたくない凪は断るが、女神は聞き入れようとしない。
一歩も引かない女神に対して凪は、「魔王を倒せたら、俺を元の身体で元いた世界に帰還転生させろ」と交換条件を提示する。
快諾した女神と契約を交わし転生した凪は、見事に魔王を打ち倒して元の世界に帰還するが――。
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~
深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。
ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。
それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?!
(追記.2018.06.24)
物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。
もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。
(追記2018.07.02)
お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。
どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。
(追記2018.07.24)
お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。
今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。
ちなみに不審者は通り越しました。
(追記2018.07.26)
完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。
お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる