お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。

永礼 経

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第141話 なんかとんでもない展開に?

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「何を馬鹿な――! そんなことが許されると思っておるのか!? お、お前はギュンダー家の跡取りなのだぞ? それが平民の娘をめとったうえ、正室は娶らぬと? お前は家を絶やすつもりか!?」

 ギュンダー伯爵の怒りはついに頂点に達した。

 キールはここでたたみかけねばと意を決して言葉を放つ。
「ギュンダー卿、ご子息の御覚悟、このご時世にあってなかなかに難しいことでございましょう。むしろ、こういう方であるからこそ、人民はその心を安んずるのではありませんでしょうか。人民に近く、寄り添われる領主であれば、領民はその徳を慕い、領地の発展に寄与することでしょう」

「お、お前に何がわかるか! そのような甘い考えで領地は治まらん! 領主たる者、常に公正に判断し、私心を挟んではならぬのだ――!」
ギュンダー卿はこれまでそのように領地を統治してきたのであろう。

 ミリアは言っていた。
 ミリアの父、ハインツフェルト公爵によると、ギュンダー伯爵はその領地政策において常に物事を公正に判断し、己の利益を度外視どがいしして治めてこられた方であり、その判断は常に「公明正大」であると。

「なればこそであります。今まさに、ご子息アラン様は自身の心内こころうちをさらけ出し、一切の「私心」無く、ただひとえに愛しい女性との縁組えんぐみを望んでおられます。そこに自身の家柄や立場を差し挟まず、その女性の友人からの『叱咤激励しったげきれい』を背に受け、そうして今まさに、最大の難関に立ち向かっておいでなのです――」
キールがやれることはやった。あとはアランの頑張りに掛かっている。

「父上! わたくしは覚悟いたしております。レッシーナと縁組ができないのなら、いかな相手とも縁組は致しませぬ。私にとってレッシーナはそれほどの女性なのです。どうか、どうかお認めくださいませ! もしお認め頂けぬのであれば、不肖な息子を破談してくださって結構です! 弟ランバートは此度こたびの一件でわたくしに力を貸してくれました。あやつがいればギュンダー家は安泰です。わたくしなどおらぬともお家が絶えることなどありませぬ――」
アランが最後の口上を述べた。

「し、しかし、ただの平民ではないのだぞ? その女は娼婦ではないか――。それを……」

 その言葉にアランは怒気を含んだ声で返した。
「父上! このアラン、今のお言葉は父上と言えども聞き捨てなりませぬぞ! 娼婦も立派な仕事であります。メストリルにおいて娼館が公認されていることからもその点は明白です。もしこれをさげすむようなことを申されれば、これを公認している国王をさげすむことにはなりますまいか!?」

(おお? いいこと言うねぇ、僕も今それを言おうと思ったところだよ――)
とキールは心の中でアランを激励する。


「はははは! ケイン、お前の負けだ。ご子息は立派に成長されておいでだ――」

 突然、扉のある方から大声が響く。
 部屋の中の一同がその方に視線を向けると、そこには黒服に案内された二人の人影があった。

「ウェルダート――?」
「ミリア――?」

 ケイン・ギュンダー伯爵とキールがほぼ同時に声を上げる。

「入口でちょうど今の話を聞かせてもらったよ? なかなかに大した覚悟だ。愛する女性を絶対にあきらめないアランの覚悟、しかと見届けさせてもらった――。しかし、一つ誤解があるようだから申しておく。貴族家の正室に平民をとってはならないという法はこの国にはない。貴族家同士が縁談を組むのはあくまでも互いの家系の安定のためである。その必要のない家に関して言えばその限りではない――」
と、ウェルダートと呼ばれた男が応え、さらに続ける。
「それに、それを否定してしまっては、ケイン、お前の行動そのものを否定することになるのだからな?」

「そ、それを言うか、ウェルダート! お前だってそうだろう!?」
ギュンダー伯爵がウェルダートと呼ばれたその男へつかみかからんばかりの勢いでけよる。

「ああ、そうだ、ケイン。俺たちはここまで来たじゃないか。俺とお前を拾ってくれたのは俺たちの嫁たちだろう?」

「ち、父上、それはどういう――?」
ミリアが驚いて言葉を挟む。

 その言葉にキールが反応する。
(父、だって? じゃあ、あの人が政務大臣のハインツフェルト公爵――ミリアのお父さん!?)

「ミリア、すまんな。これまで話すこともなかったので、ここまで話さず来てしまったが。まあ、いい機会だ。話しておいてもよかろう。ミリア、俺とケインはガキの頃からの付き合いでな、二人とも平民だったんだよ。それを、お前の母と、アランの母の姉妹が俺たちを養子にとってくれたのだ――。そうして今の俺たちがあるってわけだ」
そう言って、またギュンダー伯爵の方に目を向ける。
「ケイン、アランのことを否定することは、俺たちのことを否定することと同じだぜ? お前、それができるのかよ?」

「し、しかし、だからこそ今度はと、そう互いに決めていたではないか――」
ケインがウェルダートに向けてそう言った。

「まあなあ。でもそれは難しいだろう? もう二人ともそれぞれに違う者を愛してしまっているみたいだしな。俺たちが思うように添い遂げておいて、子供たちが思いを遂げることをはばむというのは、俺にはできない。すまんが、ミリアとの縁談はこちらの方から断らせてもらう」

「ウェルダート――?」

「これで、アランは自由の身だ。誰と婚姻しようが、ハインツフェルト家に気兼ねする必要などない。というかまあ、実はこちらにもそういう節があるようでな、正直お前にどう言おうか頭を抱えていたところだ。ある意味、いいタイミングで助かったぜ?」


 結局のところ、これ以上話がこじれることはなく、今夜のところは解散となり、レッシーナとアランの今後についてはまた後日ゆっくりと吟味するという事になった。
 もちろん、カイゼルには悪いが、話が大きくそれてしまったため、カイゼルの処遇云々うんぬんの話はどこかへ消え去ってしまっていた。

 それよりもだ。
 ウェルダート・ハインツフェルト公爵が去り際にキールに対してそっとささやいた言葉にキールは背中からどっと汗が噴き出ていた。

(ミリアのことを泣かせたら承知しないからね。俺はミリアをとても大事にしてるんだよ。いいね、キールくん、約束だよ――?)

 キールは、「約束」というのは双方の合意の上に成り立つもので、一方的に取り付けるものではないはずですが、と返したかったが、それはさすがにできなさそうだとあきらめた。

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