お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。

永礼 経

文字の大きさ
234 / 437

第234話 確信

しおりを挟む

「どうだ? 何か分かったか?」

 ネインリヒは諜報員に尋ねたが、諜報員は首を横に振るのみだった。
 やはり、魔術師の仕業ともなれば、足取りは掴めないか。

「――しかし、クリストファーの部屋の様子から、寝ている間に連れ去られたという事が分かりました。彼の部屋は片付けられていませんでした。自分から出奔したのではないものと思われます」

 諜報員がそう言ったのを聞いたネインリヒはもう下がってよいという合図を送る。諜報員は一礼するとネインリヒの下を辞した。

「――どうです? 何か分かりましたか?」
と聞いてきたのはニデリックだった。

 執務室から体を半分ほどのぞかせて廊下にいるネインリヒに声を掛けてきたのだ。
 ネインリヒはそのニデリックに応えた。

「拉致された――という事が確定的になりました」
「――そう、ですか。まあ、そうでしょうね。ヘラルドカッツかウォルデラン、あるいはシェーランネルでしょうか……。いずれにせよ、彼の身が危険にさらされることはないでしょう。命が目的ならその場で殺せてるはずですから。つまり、目的は――」
「彼の知識……ですね」
「でしょうね。ここのところのヘア教授の研究の進展は明らかに彼の力によるところが大きい――と、まわりから見ればそう見えるのは当然でしょうからね。それに彼はヘア教授の研究の全てを熟知している」

「どこでしょうか?」
ネインリヒの問いはどの国がクリストファーを拉致したのか、と言うものだ。

「それはすぐには分からないでしょうが――。あとは彼の気持ち次第というところでしょうね」
 ニデリックが言っているのは、どこの国であるにせよ、戻ろうと思えば戻れる、もしくは、なんらかの痕跡を残すこともできようという事だが、もし彼がそれを望まなければ、おそらく彼はもうメストリルには戻らないだろう。

「ミリアは悲しむでしょうね……」
とネインリヒがこぼした。
「でしょうね。でも、彼にも想いと言うものはあるでしょうからね――。どの道を選ぶのかは彼次第でしょう。残念ですが、今の我々にできることはもう無いと言わざるを得ません」
とニデリックの表情も冴えないままだった。


――――――


 いつもの時間いつもの場所、だけど今日は、いつもの5人ではなかった。
 クリストファーがいつも座っている席に、今日はエリザベスが座っている。

「クリスが消息を絶ちました……」
エリザベスが悲痛な面持おももちでこの部屋にいる4人に告げた。

「消息を、って、どういうことですか?」
キールがその言葉に即座に反応して問い返したが、ミリアは言葉の意味を受け止めきれず、困惑してて声が出せない様子だ。

「え? クリストファーさんが家出したってことですか? どうして急に?」
アステリッドが続いて声を発した。デリウスはエリザベスの言葉を待っている。

「――わからないの。でも、すぐに戻ってくるに違いないわ、私はそう信じてる」
エリザベスはそう告げただけだった。

 ネインリヒとのやり取りの中で、エリザベスは今回の件を大事おおごとにせず、少し状況を見守ろうという事で意見を合わせている。こちらが騒ぎ立てると連れ去った側としても簡単に返すわけにはいかなくなるかもしれないからだ。ここは騒ぎ立てず静観することで、相手の出方を見極めたい、と、ネインリヒがそう言ってきたのだ。

「クリス――どうして……?」
ミリアがようやく声を出したが、言葉と言うにはあまりに短い。

「自分から出て行ったという事ですか? 誰かにさらわれたとかじゃなくて?」
キールはなおも食い下がって見せたが、それに対するエリザベスの答えは、
「部屋は片付けられていたの。身支度をして出て行ったという感じだったそうよ。だから、さらわれたとかではないと思うと、ネインリヒさんが――」
というものだった。

 キールは知っているのだ、彼や彼の周囲にいるものに魔術院の監視が付いていることを。だから、何ごとかが起きれば、魔術院、つまり、ネインリヒが知らないわけはないとそう思ったのだろう。

「そう、ですか――。それじゃあ、待つしかないんですね……、クリストファーから何かしらの連絡が来るのを」

 キールの言葉にエリザベスは大きくうなずいた。

「ええ。彼がどうして出て行ったのか、どこへ向かったのか、何も分からないの。でも、部屋は片付いていたけどそのままの状況だったとも聞いているわ。だから、私は彼を待つことにするわ――」

「あ――」

 ミリアは思い出していた。キールが消息を絶った時のことを。あの時も部屋は片付いていたがそのままの状況だった。もしかするとクリスも同じなのかもしれない。

「戻って、来ますよね――?」
ミリアがようやく絞り出した声でエリザベスに問いかける。
「ええ、必ず戻ってくるわ。だって、あの子にはここでやらないといけないことがまだまだたくさん在るんですもの」
エリザベスが即座にミリアの言葉に反応した。

 結局は待つ以外に方法はないのだろう。

 実はただ急用を思い出して実家に帰っているだけかもしれないし、急に旅行へ出たいと思ったのかもしれない。
 おそらくそんなことはありえないだろうと思いもするが、今は彼を追うにはあまりにも情報がなさすぎる。

 引き続き魔術院がクリストファーの行方を追ってくれるという事で話はまとまっていると、エリザベスはそう言い残すとデリウスの教授室を出て戻っていった。

「クリス、どこに行ったの――」
「ミリア、今は連絡を待ってみよう。数日のうちに何らかの報告があるに違いないよ」
「そ、そんなこと! どうしてわかるのよ!? あなただって、わたしに何も連絡をよこさなかったじゃない!?」
ミリアが押さえきれない衝動を吐き出すように叫んだ。

「ミリア……」
「ミリアさん?」

「どうして連絡が来るなんて、そんな、根拠のないことが言えるのよ……」
「――ごめん。そう、だね」

「しかし――、待つしかあるまい……。彼だってみんなが心配するだろうことは分かっているだろうさ。それが分かっててそのままにできるようなそんな子じゃないと、私は思うがね?」

 デリウスがこの場をまとめる発言をする。
 
教授デリウスの言う通りだ。クリストファーは人一倍責任感が強くて、何より優しい。僕たち、いや、心配するのをわかっていてそのままにしては置けないだろう。だって、クリストファーは……)

 キールはそう思い、彼からの連絡が来ることを確信していた。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

異世界帰還者の気苦労無双録~チートスキルまで手に入れたのに幼馴染のお世話でダンジョン攻略が捗らない~

虎柄トラ
ファンタジー
 下校帰りに不慮の事故に遭い命を落とした桜川凪は、女神から開口一番に異世界転生しないかと勧誘を受ける。  意味が分からず凪が聞き返すと、女神は涙ながらに異世界の現状について語り出す。  女神が管理する世界ではいま魔族と人類とで戦争をしているが、このままだと人類が負けて世界は滅亡してしまう。  敗色濃厚なその理由は、魔族側には魔王がいるのに対して、人類側には勇者がいないからだという。  剣と魔法が存在するファンタジー世界は大好物だが、そんな物騒な世界で勇者になんてなりたくない凪は断るが、女神は聞き入れようとしない。  一歩も引かない女神に対して凪は、「魔王を倒せたら、俺を元の身体で元いた世界に帰還転生させろ」と交換条件を提示する。  快諾した女神と契約を交わし転生した凪は、見事に魔王を打ち倒して元の世界に帰還するが――。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

万分の一の確率でパートナーが見つかるって、そんな事あるのか?

Gai
ファンタジー
鉄柱が頭にぶつかって死んでしまった少年は神様からもう異世界へ転生させて貰う。 貴族の四男として生まれ変わった少年、ライルは属性魔法の適性が全くなかった。 貴族として生まれた子にとっては珍しいケースであり、ラガスは周りから憐みの目で見られる事が多かった。 ただ、ライルには属性魔法なんて比べものにならない魔法を持っていた。 「はぁーー・・・・・・属性魔法を持っている、それってそんなに凄い事なのか?」 基本気だるげなライルは基本目立ちたくはないが、売られた値段は良い値で買う男。 さてさて、プライドをへし折られる犠牲者はどれだけ出るのか・・・・・・ タイトルに書いてあるパートナーは序盤にはあまり出てきません。

処理中です...