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第249話 クリストファーの決意
しおりを挟むどうする? クリストファー。
目の前のカーゼル王が言ったことは本心なのだろうか?
今は真偽のほどを確かめる方法は何一つない。ただ、信じるか信じないか、それだけだ。
「――ひとつ」
「ん?」
「――ひとつ、お願いがあります」
「よい、申してみよ」
「メストリルにいるエリザベス・ヘア教授は今後の考古学界になくてはならない存在となります。私がここで研究をするにあたっても、彼女の今後の活躍は必要不可欠のものとなりましょう。おそらくのところ、レーゲン・ウォルシュタートの遺志を継ぐことは、一人や二人程度の人数では成し得ないものと思われます。それほどに、バレリア遺跡に眠っていた新技術は奥が深い――」
「なるほど――」
「ですので、今後も現れるであろう考古学の門を叩くもの、それから、バレリアで発見された新技術「電気」に関して研究をするもの、開発に参加するものなど、すべての者を保護してくださいますよう、お願い申し上げます」
「――つまり、そういうものたちの今後の活動を阻害したり、その者たちに危害を加えたりすることを絶対にするな、そう申しておるのだな?」
「はい、その通りです。積極的に支援するまでのお願いは致しませんが、そのようなものたちの芽を摘むようなことだけは避けていただきたいのです」
「当然のことである。このカーゼル・フォン・ヘラルドカッツェの名において、そなたの願いを全面的に受け入れることを約束する」
「――ありがとうございます。それではこの話、謹んでお受けいたします。このクリストファー・ダン・ヴェラーニ、力の限り研究に励むことをお約束いたします」
そう言ってクリストファーは頭を下げた。
「おお! やってくれるか! うんうん、頼んだぞ、ヴェラーニ教授」
カーゼル王は大満足といった笑みで歓迎してくれた。
クリストファーはついに自分の行く道を決意した。
いずれにせよ、遅かれ早かれ、ジュール遺跡の調査に手を付けなければならないことは事実だ。
その際には当然のことながらヘラルドカッツ王国の許可が必要となる。
その段にあたって、技術的に優位になっているメストリル傘下のエリザベス教授チームに快く協力してくれるかどうかは怪しい限りだとも言える。
であれば、ここで自分が協力的な行動をとっておいた方が、今後の展開が明るくなるはずだ、と、クリストファーは考えたのだった。
かくして、クリストファー・ダン・ヴェラーニはヘラルドカッツ大学の客員教授という地位を手に入れた。
クリストファーには即日、ヘラルドカッツ大学内に教授室が割り当てられ、さらに、貴族屋敷群の一角に建つ一軒家を与えられた。その屋敷には王国の役人たちから数人が使用人として遣わされることとなった。
(まったく、至れり尽くせりだな。だけど、ここまで管理されていると、なかなかに自由が利かないのも事実だし、なにより、結果を出せなかったときの反動が大きいに違いない。気を引き締めてやらないと……)
そして、問題の文献が与えられたのである。そう、馬車の中で謎の男ルスラン・レヴィンが言っていた、ジュール遺跡に関する記述だろうと思われる内容が描かれた新発見の書物である。
書物の記述はすべて古代語で記されていたが、ぱっと見た感じではクリストファーがすでに解読を試みた文法のように見えた。見覚えのある「綴り」が散見される。
これならそう時間はかからないだろう。
それよりも、そこに記されている「挿絵」の方が気になる。
「絵」というには精巧過ぎて、なんとなく違うものに見えた。これは人の手によって描かれたものではない、と、直感的にわかるほど精密なのだ。
おそらくこれ程精密な「絵」は人の手によっては無しえない。なにか新しい技術によって描かれたものなのだろうが、今のクリストファーにはそれが何かは分からない。
クリストファーは早速この文献の頭から解読作業に取り掛かることにした。
(しかし、やはり実物を見ないと分からないことは多そうだな――。「挿絵」のほとんどは全く意味の分からないものだ。ジュール遺跡らしきものの「挿絵」ももちろん出てくるが、それよりも意味不明な「挿絵」のほうが圧倒的に多い……)
これらのものが何かを突き止めるには、とにかくまずはジュール遺跡へ行かねば始まらない。
クリストファーは、この文献のタイトルを読んでみる。
『Entwicklung eines Radiowellenausbreitungs und Nicolaus Ausbreitungsgeräts』
やはり、どこかで見た綴りだ。
「発達、拡散、ニコラウス、拡散――」
途中2回出てくる「breitungs」という文言は「広がる」という意味を含む語で、何かが拡散する様を表している。
冒頭の「Entwicklung」は、発達という語で、何かが成長することを意味している。
「Nicolaus――。ニコラウスってのはなんだろう? 地名とか人名かもしれない……。あと、Radio、wellen――、このあたりは少し調べないとだな」
おそらくカインズベルク大図書館に行けば、古代語に関する書物もかなりの数蔵書されているはずだ。
「まずは、取っ掛かりになる調査対象を限定することだ。なるべく早く「ジュール遺跡」を見ることも大事だな。そしてこの書物が本当にジュール遺跡と関連のあるものかどうかを突き止めなければならない」
やらねばならないことは山積みだが、ひとつひとつ地道につぶしていくしかない。これはエリザベス教授から学んだことの一つだ。考古歴史学はそういう積み重ねこそが一番必要なことなのだと師は言った。
――教授。僕は自分の道を拓いてゆくことを決意しました。いつかまた教授の研究と交わることを信じて、僕も僕の役割に集中しようと思います。
そう心に念じると、この激動の一日に終止符を打った。
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ちなみに不審者は通り越しました。
(追記2018.07.26)
完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。
お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!
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