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第6話 トール、「剣」を振る
しおりを挟む狂狼の片方の前足が、今の一振りで斬り飛ばされたのか?
でも、触れた感触はなかったぞ?
「どうして――?」
トールは思わず呟く。
『いわば、魔法です――』
と、トールのつぶやきに対して、即座にさっきの女の声が返ってくる。
「魔法? つまり、この剣を振るうと魔法が発動するって言うのか?」
『――まあ、そんな感じです。実際は、私が魔力を放出してるんですが、そんなことは――あっ! 来ますよ!?』
頭に届く思念波が、次の狂狼の攻撃を察知し、報せてくる。
狂狼は、意を決したように、ダッシュすると、トールの目前5メートルほどの場所から飛び上がった。
『頑張って――!』
「わ、わかってるよ!」
トールは、対応すべく右手の剣に左手を添えて、両手持ちのまま高く掲げ、狂狼が向かってくる軌道に合わせて縦にぶんっと振り下ろした。
シュバ――っという空気を裂く音、剣から伝わる微かな振動――。
物体を斬ったという感触ではなく、まるで水を斬ったかのような手ごたえがトールの両腕に伝わってくると、まさしく、波がうねるような空間の歪みが剣撃の軌道から発せられる。
そしてその「波」は、迫りくる狂狼の顔面に向かって真っすぐ進んでいくと、やがてその顔面に到達した。
すぅ――と「波」が狂狼の顔面に吸い込まれていくとともに、狼の顔が二つに割れ、そのまま、全身が完全に真っ二つに分断されてゆく。
どしゃしゃ――と、何かの液体を振りまきながら、狂狼の二つに割れた体がトールの左右を通過して、やがて地面に落ちた。
トールは、全身に狂狼の中から飛び出て来た液体を浴びながら、両手を地面の手前まで振り下ろした態勢でいたが、その液体の生臭さに、ようやく事態を飲み込む。
(これって――もしかして胃の中のもの? ということは、俺の腕の残骸――)
「わ、わあああ! あああ!」
トールは堪らず、叫び声をあげ、その場に尻もちをつき、両手で地面を抑えてかろうじて倒れ込むのを踏ん張った。
(ああ! さすがに、これは――! あああ!)
狂狼は真っ二つになって転がっている。さすがにあの状態から復活して襲ってくることは無いことぐらい理解できている。しかし、今浴びた液体の中に、自分の腕の残骸が含まれているという事実に、トールはさすがに受け入れがたい衝撃を感じて震えが止まらない。
『き、木こりさん! しっかり! 大丈夫、狂狼はもう、絶命してます! あなたは、生き延びたんですよ!!』
その声に、ようやくトールは少し落ち着きを取り戻す。
そうだ――、俺は、生きている。
腕は無くなってしまったかもしれないけど、まだこうして考えられている。息もしている。胸の鼓動も止まってはいない――。
「――生き延びた、のか?」
トールは、誰かと問われればその声に向かってという他ないような疑問符を呟いた。
『そうです! あなたは、生き延びたんです! 死んではいません! 大丈夫!』
女の声が必死にトールの正気を取り戻そうと叫んでいるのが理解できた。
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