黒沢ゆいなと森原みらいと女神をめぐる三角関係の内角の和

奥野とびら

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全裸にされた黒沢ゆいな

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 葉山は取調室ではなく病室に入れられた。
 警察病院の個室である。医師が出てゆくと代わりに大曽根と井川が入ってきた。
「お見舞いなら果物でも持ってきてくれ。夕張メロンがいい」
 ベッドに横たわったまま葉山が言った。
「事情聴取だ」
「オレは怪我人だぞ」
「安心しろ。死なない程度にやる」
 葉山は溜息をつく。
「凶器の拳銃が現場で発見された。もちろん、お前の指紋つきだ」
「オレは撃ってない」
「ところが証拠は正直でな。お前の指からは硝煙反応が検出された」
「嵌められたんだ。おそらく気を失っているときに拳銃を握らされて犯人が一発、撃ったんだろう」
「そんな戯言で陪審員を納得させられると思ったら大まちがいだぞ」
「オレに動機がない事ぐらい判るだろ」
「たしかに動機はない。だが昨今、動機なき殺人というのが増えていてな」
「やめてくれ」
「それに動機はこれから調べる。隠れた動機があるのかもしれん」
「エニグマ」
「なに?」
「隠れた動機があるとしたらエニグマだ」
「なんだそりゃ」
「とぼけるな。西山が死ぬ間際に漏らした言葉だろ」
「それと米倉教授とどういう関係がある」
「オレは米倉先生にエニグマ叡智保存協会のことを訊きに行ったんだ」
「エニグマ……エイチ?」
「秘密結社だ」
 葉山は簡単にエニグマ叡智保存協会について説明した。
「おもしろいですね」
 すぐさま井川が反応した。大曽根はギロリと井川を睨む。
「動機があるとしたらエニグマ叡智保存協会の方だ。米倉先生に秘密をばらされそうになったんで殺したんだろう」
「二十四時間見張ってるって言うのか」
「ジャック・バウアーなら可能だな」
「バカ言うな」
「二十四時間見張っていなくても不穏な動きをキャッチしたら、そこから注視していたかもしれない」
「その組織は本当にあるのか?」
「ある。その組織に外部の人間としてはおそらく最も詳しい米倉先生が〝ある〟と断言してたんだから。会員とも話したことがあるって言ってた」
 井川が葉山の言葉をメモしている。その様子を大曽根は横目で確認する。
「西山だって死ぬ間際に〝エニグマ〟という言葉を遺してるんだ。これでエニグマ絡みで二人の人間が死んだことになる」
「その根っこにはエニグマ叡智保存協会があるっちゅうのか」
「ああ」
 大曽根は考えこんでいる。
「とりあえずお前の逮捕状を取る」
「だからオレはやってないって」
「陪審員に言うんだな」
 大曽根と井川は病室を出ていった。

    *

 ゆいなが部屋で待っているとドアが開き三人の女性が入ってきた。
 尼ヶ崎優華、十文字真生子、広崎レナである。
「これから入信の儀式を執りおこないます」
 尼ヶ崎優華が言った。
「今日から一ヶ月、あなたはこの施設で暮らしていただきます」
「え? 一ヶ月?」
 優華が頷いた。
「そ、それは……」
「どうしました?」
「あの、準備をしなきゃならないから一旦、帰ります。着替えとかも取って来なきゃならないし」
「服はこれを着てください」
 広崎レナが立ちあがり畳まれた白い衣服を差しだした。薄い布地でできたワンピースのようだ。ゆいなはそれを受け取った。
「でも、いろいろ連絡しなきゃならないところがあって」
「荷物はすべて教団で預かります。バッグを寄越してください」
 尼ヶ崎優華の声は静かだが有無を言わせぬ力強さがあった。レナの視線もゆいなを射抜いている。
「あなたは本当に入信する気があるのですか?」
「あ、あります」
「だったらバッグを渡してください」
 ゆいなはしばらく考えてから「わかりました」と返事をした。潜入取材をするのなら偽装入信するしかないと腹をくくったのだ。
 バッグをレナに渡す。
「服を脱いで、これに着替えてください」
 優華が白い衣服を示した。
「更衣室は?」
「ここで着替えてください」
「え、今ですか?」
「そうです」
「みなさんの見ている前で?」
「それが儀式なのです」
 ゆいなは小さな溜息をついてブラウスのボタンに手をかけた。偽装入信すると腹をくくった以上、入信のための儀式はクリアしなければならない。
 ゆいなは思いきりよくブラウスとスカートを脱いで下着姿になった。
「下着も脱いでください」
 優華の言葉に驚かされたが逆らうつもりはなかった。 ゆいなはブラジャーとショーツを脱いで全裸になった。 両手で前を隠すとレナに新しい服を渡された。麻でできているようだ。薄くて光を通しそうだ。
 頭から被るとワンピースで膝上二十センチほどの短い丈だった。
「一ヶ月間は、その服装で暮らしてください」
「外には出られないの?」
「出られません」
 だったら、その期間を利用して、この館内を徹底的に調べてやろう。そして森原みらいを捜しだすのだ。
 ゆいなはそう思った。
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