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死者が甦る
しおりを挟む八ヶ岳の山火事は、まだその傷跡を色濃く残していた。
場所によっては残り火が燻っているところもある。
居住地区ではなかったから焼死者は河西芳紀ただ一人だったが植林は広範囲で燃えてしまった。
その始末をする作業員の一人が不審げな顔を見せた。「どうした」
仲間の一人が問い質す。
「あれ」
作業員は三メートルほど先の地面を指さした。仲間がその辺りを見つめると地面が動いているように見える。
「何だ?」
土が盛りあがり盛りあがった地点から土塊がこぼれ落ちている。
「モグラか?」
「モグラにしちゃでかいべ」
土の中から人間の手が現れた。
「ひ」
作業員たちは、どちらともなく小さな悲鳴をあげて顔を見合わせた。
土の中から現れた手は辺りの土をかき分け、やがてもう一本の手が現れた。あまりに不可思議な出来事に作業員たちは考える力を失っていた。
土が一気に盛りあがった。
作業員の一人は腰を抜かして地べたにへたりこんだ。
土の中から人間が現れた。
もう一人の作業員も腰を抜かした。
土の中から現れた人間は、かなり大柄な男性だった。土で汚れ真っ黒になった顔に大きな目が光っている。その目でギョロリと辺りを見回し作業員を見つけた。
男は作業員に向かって歩きだした。
「あ、あんたは」
勇気を振り絞って作業員の一人が男に声をかけた。
「あんたは誰だ。どうして土の中に?」
もしかしたら事件に巻きこまれて埋められたのかもしれない。それが土の中で息を吹き返し自力で這いだしたのだ。だとしたら警察に通報しなければ。
「覚えていない」
男の声は深く重たい声だった。
「覚えていないんだ。私はどうしてここにいるのか」
「名前は?」
作業員の問いかけに男はしばし考えた。
「湯野」
「え?」
「思いだした。私は〈喜びの子供たち〉教祖、湯野陽光である」
作業員たちは呆気にとられた。
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