黒沢ゆいなと森原みらいと女神をめぐる三角関係の内角の和

奥野とびら

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鍵を握る河西芳紀の原稿

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 黒沢ゆいなと葉山、生田目の三人はムーンプレス社の会議室で密談を続けていた。
「森原みらいがいる場所はJC美術館の地下以外にはない」
 航空写真と独自に入手した間取りを記した平面図を検討していた生田目が断言した。
「同感です」
 葉山が続く。
「〈喜びの子供たち〉すなわちエニグマ叡智保存協会が所有する施設、不動産の中で規模から言って将来のマリアと目する人物を秘匿する場所はないでしょう」
「同感です」
 三人の意見が一致した。
「後はJC美術館地下のどこか」
「一般人が入りこまない場所ですね」
「空調室とか?」
「いや目的がハッキリしている部屋は空きスペースが少ない。もっと広い部屋だ」
「となると……」
 ゆいなは見取り図を凝視する。
「資材置き場は?」
「それだ」
「資材置き場も資材を置くという目的がハッキリとありますよ」
「だがスペースに融通が利く。それに資材置き場は一つじゃない」
「三部屋ありますね」
 ゆいなが見取り図を見ながら言う。
「この中のどの部屋でしょう?」
「物を隠すなら心理的にも論理的にも……」
「いちばん奥の資材置き場ですね」
「そうだ」
「そこに行きましょう」
「でも」
 生田目が二人を見る。
「部屋に入れるか? 鍵がかかっているだろうし」
「建物の入口の鍵じゃありません。建物内の、それも資材置き場の鍵です。俺が開けますよ」
 生田目は一瞬、顔を顰めたが何も言わなかった。

   *

 一行はJC美術館に押しかけた。
 チケットを買って入館すると、それぞれトイレで自演に入手していた従業員用の制服に着替えて出てくる。
 地下への階段および地下見取り図は頭に叩きこんでいる。
 三人は地下に降り細い通路の奥まで進んだ。
 鉄板の扉があり〝資材置き場 関係者以外立ち入り禁止〟のプレートがかかっている。
 ゆいなが逸る気持ちでドアノブを回そうとしたが鍵がかかっている。
「どいて」
 葉山が鞄から金具を取りだして鍵穴に差しこみ作業を始める。
 ジリジリする時間が過ぎ、やがてカチリと音がして錠が開いた。
 葉山はドアノブを回し扉をゆっくりと開けた。
 様々な工具、資材が大きな部屋一杯に設置されている。
 係員はいないようだ。
 機械を避けながら部屋の奥へと進む。
 前方に更にドアが見えた。
「まだドアがあるわ」
「鍵を開ける」
 葉山が再び錠を解いてドアを開けた。地下への階段が伸びていた。
 葉山が階段を下りる。ゆいなと生田目も続く。降りきると突きあたりにドアが見える。
「開けます」
 再び葉山が鍵穴に道具を入れながら操作すると施錠された音が小さく響いた。
 ドアの向こうには部屋が広がっていた。
「みらい!」
 ゆいなが叫びながら葉山を押しのけて部屋に入る。だが森原みらいの姿はどこにもなかった。
「これは……研究室あるいは手術室か」
 葉山が言う。
「森原さんはいないようだ」
 葉山の言葉に唯奈の顔が曇る。
「他に通路はないようだな」
 生田目が言う。
「だけど、ここはどうやら研究室、あるいは手術室のようだよ。ここで奴らが、なんらかの研究をしていたことは確かだろうね」
「どうして誰もいないんでしょうか」
「逃げたんだろう」
 生田目が答える。
「逃げた?」
「そうだ。ここはそろそろ危ないと踏んでいたに違いない。だからイエスの遺伝子に関するあらゆる証拠を隠滅したんだと思う」
「あらゆる証拠って、みらいは?」
「無事だろう」
 生田目は断言した。
「その子はイエスを産むという使命を背負っている。どんな事があっても死にはしない」
「絶対に見つけだすわ」
 スマホの着信音が鳴った。
 葉山がポケットからスマホを取りだす。

――葉山さんか?
――誰?
――中原だ。

 葉山はその名前を思いだした。河西芳紀の担当だった編集者だ。

――伝えたい事があってな。
――どうしてこの番号を?
――あんたの名刺を見たんだ。

 アパートに置いてきたことを思いだした。中原は一度、アパートに帰ったらしい。

――俺は河西芳紀の原稿を預かっている。
――え?
――そこにはエニグマ叡智保存協会のことが細かく書かれているんだ。
――なに?
――浅沼稲次郎のことも書かれている。
――浅沼……。
――詳しいことは読めば判る。
――今どこにいるの?

 短い叫び声のようなものが聞こえ通話が切れた。

――おい!

 返事はない。
 葉山は諦めてスマホを閉じた。
「どうした?」
 生田目の問に葉山は電話の内容をかいつまんで説明する。
「その編集者も危ないぞ」
 だが葉山には編集者の居場所を突きとめる術がなかった。
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