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1話 出会いたくなかったんだけどなぁ
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「え? 何か御用ですか?」
私は震えるような声を絞り出しながら、目の前にいる高等部の制服を着た男子生徒に恐る恐る質問をする。彼はそれはそれは怖い目つきで、私を鋭くにらみつける。
「お前、今朝俺と目があった時に突然走って逃げだしたやつだろ?」
確かに私は今朝、この人から全力疾走で逃げ出した。だって死ぬほど怖かったから。そして私はもう一度彼から逃げ出した。体格の小ささをうまく利用し、視界から逃れるようにさささーっと逃げ出すと、追いかけるのを諦めた彼はどこかに行ってしまった。
ごみ箱の後ろからひょっこり顔を出した私は、周囲に彼がいないことを確認して足早にその場から立ち去るのであった。その日はすぐに眠って、翌朝の入学式に備えるのであった。
翌朝。高等部に進学することが決まった私は、中等部までは二クラスあった貴族クラスが、進学率の都合でひとまとめにされ、平民クラスも裕福な家庭か、優秀な生徒しか残っておらず、二クラスだけとなり、合計三クラスの同学年のみんなと入学式を迎えることになりました。
この国の制度では、入門である初等部に入学可能なのは、受験に合格した七歳から十歳の子供。中等部に入学できるのは、十二歳までに初等部を卒業した希望者。更に高等部に上がるには十六歳までに中等部を卒業した希望者となっています。期末にある進学試験を受け、各部三回合格すれば卒業となります。
私達は中等部を無事に卒業した十六歳までの生徒たちということになります。
新入生代表として選ばれたのは、公爵令嬢のミシェーラ様。彼女は、現王妃様の妹でもあり、ありとあらゆる才能を披露したすべてを持っていると言っても過言ではない令嬢。私とは対極の位置にいる方です。
七歳で入学し、つまずくことなく進学して現在十三歳。私より二つ年下の彼女ですが、優秀すぎて新入生代表にまで選ばれてしまいました。
新入生の挨拶が終わり、生徒代表が壇上に立ちます。本校は創立十年目に入る為、現在高等部に所属されている二回生の先輩方は、ミシェーラ様同様ストレートで進学していったエリート中のエリートしかいません。
その代表の方が、壇上に上がりました。金髪に鋭い目つきの学生は、い殺すような青い瞳で新入生の方に目を向けました。その顔を見た瞬間、ゾワリとした感覚が私の背中を撫でまわします。
この人どこかでお会いしたような気が…………昨日の人?
どうやら昨日、突然私を威圧してきた方は、生徒代表に選ばれるような優秀な方のようでした。挨拶は一切頭に入ってくることはありませんでしたが、自己紹介時に聞いた名前は脳内で何度も反復しています。
ギルベルト・ハウクル・バルツァー。確かにそう名乗っていました。バルツァー家と言えば我が国の公爵家の一つ。そしてバルツァー様は噂に名高い次期公爵様で間違いないでしょう。
私はそのようなお方から、昨日全力疾走で逃げ出してしまったというのですか。同じ学内にいる以上、今後、私の前にバルツァー様が現れないなんてことはないでしょう。高等部はまだまだ人数も少ない。授業も二回生と合同になる場合もあるそうです。
男女ですし、きっと座学は別々でしょうからお会いする機会なんてないと信じたいですが。
入学式の後はそのまま教室に行って皆様とご挨拶することになります。学友と言いましても、もうすでに六年から八年の付き合いの方々ですし、自己紹介までは不要ですが形式的に行われました。
さすがにほぼ全員顔見知りのご挨拶ですので、怖がる必要はありませんでしたが、やはり人前で喋ることには抵抗があり、私は自分のご挨拶の番が来て起立しました。
「マリー・コースフェルトです。コースフェルト伯爵家の長女で、ほとんどの方々が顔見知りですが、これからの高等部の学生生活よろしくお願いいたします」
何とか噛まずに自己紹介できたと思います。実は半分近く顔見知りだった中等部ではほぼ噛み噛みで自己紹介途中で泣き出した伝説が今も時々語り継がれているそうです。
そして全員のご挨拶が終わり、高等部での生活の説明や、学舎の案内。教材の配布が終わり、お昼になりました。私は誰の視界に入ることなく学舎案内の途中で見つけた、人気の少ない日陰のベンチに向かい腰をおろします。
「怖かった。なんで私こんな思いをしてまで学校に通わされているんだろう?」
コースフェルト伯爵家は、学校の理事長である公爵夫人様と親しい間柄であり、私は父から無理やり入学させられ、中等部高等部と二度もやめる機会があったものの、父に通いなさいと言われてしまうと、私は震えながら「はい」としか言えないほどの弱虫でした。
結果、高等部も無事に入学。父が怖くてこの可愛らしい白いワンピースの制服を着ているのは私だけでしょう。しかし、今最重要なことは、二回生のバルツァー様と二度と遭遇しない様にすること。せめて、昨日のことがどうでもよくなるくらい昔になってから視界の片隅にいるようにすることを目標に生きなければいけません。
「よし、あの人が卒業するまで目立たない。騒がない。ひたすら隅っこで丸まっていよう」
こうして私の楽しくない楽しくない高等部生活が始まろうとしていた。
私は震えるような声を絞り出しながら、目の前にいる高等部の制服を着た男子生徒に恐る恐る質問をする。彼はそれはそれは怖い目つきで、私を鋭くにらみつける。
「お前、今朝俺と目があった時に突然走って逃げだしたやつだろ?」
確かに私は今朝、この人から全力疾走で逃げ出した。だって死ぬほど怖かったから。そして私はもう一度彼から逃げ出した。体格の小ささをうまく利用し、視界から逃れるようにさささーっと逃げ出すと、追いかけるのを諦めた彼はどこかに行ってしまった。
ごみ箱の後ろからひょっこり顔を出した私は、周囲に彼がいないことを確認して足早にその場から立ち去るのであった。その日はすぐに眠って、翌朝の入学式に備えるのであった。
翌朝。高等部に進学することが決まった私は、中等部までは二クラスあった貴族クラスが、進学率の都合でひとまとめにされ、平民クラスも裕福な家庭か、優秀な生徒しか残っておらず、二クラスだけとなり、合計三クラスの同学年のみんなと入学式を迎えることになりました。
この国の制度では、入門である初等部に入学可能なのは、受験に合格した七歳から十歳の子供。中等部に入学できるのは、十二歳までに初等部を卒業した希望者。更に高等部に上がるには十六歳までに中等部を卒業した希望者となっています。期末にある進学試験を受け、各部三回合格すれば卒業となります。
私達は中等部を無事に卒業した十六歳までの生徒たちということになります。
新入生代表として選ばれたのは、公爵令嬢のミシェーラ様。彼女は、現王妃様の妹でもあり、ありとあらゆる才能を披露したすべてを持っていると言っても過言ではない令嬢。私とは対極の位置にいる方です。
七歳で入学し、つまずくことなく進学して現在十三歳。私より二つ年下の彼女ですが、優秀すぎて新入生代表にまで選ばれてしまいました。
新入生の挨拶が終わり、生徒代表が壇上に立ちます。本校は創立十年目に入る為、現在高等部に所属されている二回生の先輩方は、ミシェーラ様同様ストレートで進学していったエリート中のエリートしかいません。
その代表の方が、壇上に上がりました。金髪に鋭い目つきの学生は、い殺すような青い瞳で新入生の方に目を向けました。その顔を見た瞬間、ゾワリとした感覚が私の背中を撫でまわします。
この人どこかでお会いしたような気が…………昨日の人?
どうやら昨日、突然私を威圧してきた方は、生徒代表に選ばれるような優秀な方のようでした。挨拶は一切頭に入ってくることはありませんでしたが、自己紹介時に聞いた名前は脳内で何度も反復しています。
ギルベルト・ハウクル・バルツァー。確かにそう名乗っていました。バルツァー家と言えば我が国の公爵家の一つ。そしてバルツァー様は噂に名高い次期公爵様で間違いないでしょう。
私はそのようなお方から、昨日全力疾走で逃げ出してしまったというのですか。同じ学内にいる以上、今後、私の前にバルツァー様が現れないなんてことはないでしょう。高等部はまだまだ人数も少ない。授業も二回生と合同になる場合もあるそうです。
男女ですし、きっと座学は別々でしょうからお会いする機会なんてないと信じたいですが。
入学式の後はそのまま教室に行って皆様とご挨拶することになります。学友と言いましても、もうすでに六年から八年の付き合いの方々ですし、自己紹介までは不要ですが形式的に行われました。
さすがにほぼ全員顔見知りのご挨拶ですので、怖がる必要はありませんでしたが、やはり人前で喋ることには抵抗があり、私は自分のご挨拶の番が来て起立しました。
「マリー・コースフェルトです。コースフェルト伯爵家の長女で、ほとんどの方々が顔見知りですが、これからの高等部の学生生活よろしくお願いいたします」
何とか噛まずに自己紹介できたと思います。実は半分近く顔見知りだった中等部ではほぼ噛み噛みで自己紹介途中で泣き出した伝説が今も時々語り継がれているそうです。
そして全員のご挨拶が終わり、高等部での生活の説明や、学舎の案内。教材の配布が終わり、お昼になりました。私は誰の視界に入ることなく学舎案内の途中で見つけた、人気の少ない日陰のベンチに向かい腰をおろします。
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