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28話 名前呼びは恥ずかしいんだけどなぁ
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放課後になる頃、ミシェーラ様とお別れをしいつものようにバルツァー様の所に向かおうとしたところで、私の前に二人の女生徒が現れました。
そこにいたのは、メリッサ様とオリーブ様でした。ルビー様はいらっしゃらないようです。
「あの? そこを通して頂けませんか?」
「貴女、調子に乗りすぎなのよ」
私の言葉を一切聞こうとせずにルビー様は自らの主張をしてきました。別に調子に乗っているつもりなんてありません。
でも、ここを通らなければバルツァー様にお会いすることもできません。一度ここから離れれば、どいてくださるでしょうか。
正直、関わりたくありませんし、授業中はミシェーラ様の陰に隠れてひっそりしていたので目立った嫌がらせなんてありませんでしたが、やはりいなくなった途端こうなるのですね。
案外、走って突っ切れば通り抜けられたりするのでしょうか?
いえ、やめておきましょう。ここは一度引いてバルツァー様には遅れましたと謝りましょう。
「では私はこれで」
そういって振り返ると、水が並々入った桶を持ったルビー様が、私目掛けてその水をぶっかけてきました。
「え?」
「やだぁきたなぁい。マリーちゃんそれ掃除しといてね」
「え? え?」
「あ、先生には私達が言っておくね? マリーちゃんが水をこぼしたので掃除してますって」
「きゃはははは」「ヒドーイ」
お三方はどこかに行ってしまいましたが、私は茫然と立ち尽くすことしかできませんでした。
濡れた髪と制服。床に広がる水たまり。どうしていいかわからずその場で固まっていると、誰かの足音が聞こえ、私はとっさに掃除を始めようと、近くにあった用具入れの所まで駆け込みました。
そんな時、勢いよくスリップしてしまいます。
ふわっとした感覚が、体が落下していく前兆であると理解し、そのままストンと二本の腕に収まりました。
「へ?」
「何をしている?」
そこには金色の髪に青い瞳の眉間にしわをつけた男性。
「バルツァー様?」
「なんでお前はこんなにびしょ濡れなんだ?」
何故か。水をかけられましただなんて言えば、私がバルツァー様に告げ口したことを、ルビー様方にバレてしまいます。どうしましょうか。
きっとバルツァー様はお優しいからやめるようにとお声がけして終わる。そしてルビー様方からより分かりにくく陰湿な嫌がらせを受けるかもしれません。
今は耐えるべきでしょう。
「水をこぼしてしまいました。盛大に」
私がそう言って、なんとかバルツァー様に笑顔を向けますと、彼は少し怒った表情で嘘をつくなと呟きました。
「何故そう思いましたか?」
「もしコースフェルト嬢が水をこぼしたのであれば、君は最初におろおろしながら謝る」
私の癖、お見通しなんですね。
私を一度床に立たせ、バルツァー様は思い切り私を抱きしめました。
「服が濡れてしまいますよ?」
「君が冷えるよりはいい」
「…………お互いびしょびしょですし、今日はこれを片付けてもう帰りましょうか? 今、綺麗にしますのでバルツァー様はお先におかえりください」
私がそう言いますと、バルツァー様は一緒に掃除用具を手に取り、黙って掃除を始めました。
「いえ、ここは私がやっておきます! 一人で大丈夫です!」
私がそう言ったにもかかわらず、彼は手を動かすことをやめません。ええい、もうどうにでもなれ。
下手に止めるように声をかけるよりは、より早く手を動かし、さっさと終わらせた方が良いでしょう。
「コースフェルト嬢。もしよければだが」
「はい?」
彼は何かを言おうとして、ただその何かを口にするのが恥ずかしいのか上手く言えずに固まっています。
「もしよければ。君のことをファーストネームで呼んでもいいだろうか?」
え?
お好きにどうぞ?
そんな軽い気持ちくらいしかなく、私はどうぞと頷きますと、彼は何か大切な物の名前を言う様に、優しく声を出しました。
「マリー」
その声が耳を通り、頭に響き渡る頃、私の中では経験したことのないような高揚感と、普段失敗した時とは一味違う羞恥が私を一気に襲いました。
「ハァ!? ちょっとちょっとなんですかその言い方はダメです! 恥ずかしすぎます!!!」
「そうかマリー」
「だから!!」
「マリー」
「もう!」
お互いびしょ濡れのまま、意味のないやり取りをしすぎてしまいました。掃除用具を片付け、早めにバルツァー家の馬車に乗せて頂きました。
そこにいたのは、メリッサ様とオリーブ様でした。ルビー様はいらっしゃらないようです。
「あの? そこを通して頂けませんか?」
「貴女、調子に乗りすぎなのよ」
私の言葉を一切聞こうとせずにルビー様は自らの主張をしてきました。別に調子に乗っているつもりなんてありません。
でも、ここを通らなければバルツァー様にお会いすることもできません。一度ここから離れれば、どいてくださるでしょうか。
正直、関わりたくありませんし、授業中はミシェーラ様の陰に隠れてひっそりしていたので目立った嫌がらせなんてありませんでしたが、やはりいなくなった途端こうなるのですね。
案外、走って突っ切れば通り抜けられたりするのでしょうか?
いえ、やめておきましょう。ここは一度引いてバルツァー様には遅れましたと謝りましょう。
「では私はこれで」
そういって振り返ると、水が並々入った桶を持ったルビー様が、私目掛けてその水をぶっかけてきました。
「え?」
「やだぁきたなぁい。マリーちゃんそれ掃除しといてね」
「え? え?」
「あ、先生には私達が言っておくね? マリーちゃんが水をこぼしたので掃除してますって」
「きゃはははは」「ヒドーイ」
お三方はどこかに行ってしまいましたが、私は茫然と立ち尽くすことしかできませんでした。
濡れた髪と制服。床に広がる水たまり。どうしていいかわからずその場で固まっていると、誰かの足音が聞こえ、私はとっさに掃除を始めようと、近くにあった用具入れの所まで駆け込みました。
そんな時、勢いよくスリップしてしまいます。
ふわっとした感覚が、体が落下していく前兆であると理解し、そのままストンと二本の腕に収まりました。
「へ?」
「何をしている?」
そこには金色の髪に青い瞳の眉間にしわをつけた男性。
「バルツァー様?」
「なんでお前はこんなにびしょ濡れなんだ?」
何故か。水をかけられましただなんて言えば、私がバルツァー様に告げ口したことを、ルビー様方にバレてしまいます。どうしましょうか。
きっとバルツァー様はお優しいからやめるようにとお声がけして終わる。そしてルビー様方からより分かりにくく陰湿な嫌がらせを受けるかもしれません。
今は耐えるべきでしょう。
「水をこぼしてしまいました。盛大に」
私がそう言って、なんとかバルツァー様に笑顔を向けますと、彼は少し怒った表情で嘘をつくなと呟きました。
「何故そう思いましたか?」
「もしコースフェルト嬢が水をこぼしたのであれば、君は最初におろおろしながら謝る」
私の癖、お見通しなんですね。
私を一度床に立たせ、バルツァー様は思い切り私を抱きしめました。
「服が濡れてしまいますよ?」
「君が冷えるよりはいい」
「…………お互いびしょびしょですし、今日はこれを片付けてもう帰りましょうか? 今、綺麗にしますのでバルツァー様はお先におかえりください」
私がそう言いますと、バルツァー様は一緒に掃除用具を手に取り、黙って掃除を始めました。
「いえ、ここは私がやっておきます! 一人で大丈夫です!」
私がそう言ったにもかかわらず、彼は手を動かすことをやめません。ええい、もうどうにでもなれ。
下手に止めるように声をかけるよりは、より早く手を動かし、さっさと終わらせた方が良いでしょう。
「コースフェルト嬢。もしよければだが」
「はい?」
彼は何かを言おうとして、ただその何かを口にするのが恥ずかしいのか上手く言えずに固まっています。
「もしよければ。君のことをファーストネームで呼んでもいいだろうか?」
え?
お好きにどうぞ?
そんな軽い気持ちくらいしかなく、私はどうぞと頷きますと、彼は何か大切な物の名前を言う様に、優しく声を出しました。
「マリー」
その声が耳を通り、頭に響き渡る頃、私の中では経験したことのないような高揚感と、普段失敗した時とは一味違う羞恥が私を一気に襲いました。
「ハァ!? ちょっとちょっとなんですかその言い方はダメです! 恥ずかしすぎます!!!」
「そうかマリー」
「だから!!」
「マリー」
「もう!」
お互いびしょ濡れのまま、意味のないやり取りをしすぎてしまいました。掃除用具を片付け、早めにバルツァー家の馬車に乗せて頂きました。
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